第162回国会 衆議院 予算委員会 第15号

○古屋(範)委員 公明党の古屋範子でございます。本日は、私が当選以来取り組んでおります高齢者虐待防止対策について厚生労働大臣にお尋ねをしてまいります。

 昨年七月に厚生労働省が発表いたしました二〇〇三年の日本の平均寿命、女性が八十五・三三、男性が七十八・三六、それぞれ過去最高を記録いたしました。まさに日本が世界に冠たる長寿国の一つであると言うことができます。これは、我が国がこれまで医療の充実、医学の進歩、また生活水準の向上など、各種施策を充実してきたたまものであると言うことができます。

 反面、このように高齢化が世界有数のスピードで進む我が国において、最近、介護が必要な高齢者を放置したり、また家庭内、施設内におきまして暴力を振るったりなど、虐待の問題が深刻化しております。そこで、この高齢者虐待という深刻なテーマについて、順次お尋ねをしてまいります。

 高齢者への虐待は表面化しづらく、これまで、家庭内、また施設内の問題として見過ごされてきており、児童虐待に比べ法整備の対策も大変おくれていると言うことができます。

 つい先日も、石川県内におきまして、八十四歳の女性がそこにいる職員により殺害をされるという大変ショッキングな事件が起きました。

 ある報道機関の調査によりますと、二〇〇二年七月から一年間に警察が公表した事件だけでも、介護者による殺人、また傷害致死などによる死者、四十六名に上っております。厚生労働省が初の全国調査を行い、昨年四月にまとめられました調査結果では、その中で……(発言する者あり)

○甘利委員長 質問中ですので、静粛にお願いします。

○古屋(範)委員 虐待のあったケースの中で、命に及ぶケースというのがその約一割であるということがわかっております。それがエスカレートした場合には、心中、また殺人に至るというケースもございます。

 また、平均寿命、女性が長いということから、虐待を受けるのはやはり女性という比率が高いわけでございます。虐待に気がついた在宅介護の専門員も、その九割が対応は難しいと感じております。

 御承知のように、二〇一五年、高齢化率が二六%、国民の四人に一人が六十五歳以上と予想される高齢社会におきまして、虐待をどう防ぐか、これは大変重要なテーマである、それは他人事ではなく、私たち一人一人にとっての将来に直結した問題であると考えております。尾辻厚生労働大臣に、この虐待についてどのようなお考えをお持ちか、御所見をお伺いいたします。

○尾辻国務大臣 今お話しいただきましたように、急速に高齢化が進んでおります我が国でございますから、高齢者が尊厳を持って暮らすことができる社会の実現は最も重要な課題の一つでございます。こうした観点から、この高齢者虐待問題への対応は極めて重要な問題だと認識をいたしております。

 これも今お触れいただきましたけれども、厚生労働省におきまして、昨年、家庭内における高齢者虐待に関する調査を行いました。その調査結果を見ますと、虐待を受けている高齢者の約八割に認知症の症状が見られる。この認知症というのは、今まで痴呆と言ってまいりました言葉を認知症という言葉に変えました。その認知症の症状が見られる方が八割、こういうことであります。そしてまた、虐待者の約六割は主たる介護者として介護を行っていた者であり、また、そのうちの六割には介護協力者が全くいないということでございます。

 このことからもわかるんですけれども、発生要因として見ますと、高齢者本人と虐待を行っている家族等との人間関係、それから虐待者の介護疲れといったようなことが多いという回答になっております。一言で言いますと、大変難しい側面があるということが改めて明らかになりました。

 そこで、今お話しのように、高齢者虐待の防止をどうするかということでありますが、大きく二つあると考えておりまして、家族に対する相談支援体制の構築等ということが一つ、そして、そういうことを含めて、関係機関が協力して、介護サービスのみならず高齢者の生活全体を支援していく、そうした仕組みづくりが必要である、この二つが大事なことだと考えております。

○古屋(範)委員 今御答弁にありましたように、まさに、家族への支援、またサービス全体の活用、こういったものが確かに必要であると考えております。

 この高齢者虐待におきましては、加害者と被害者という立て分けというものも難しく、まさに両者が被害者であるということが言えるかと思います。高齢者におきましても、また児童に対しても、この虐待の定義というものは大変難しいと言われております。

 私は、この五種類に類型が分けられるのではないかというふうに考えておりますけれども、高齢者の身体に外傷を生じ、または生ずるおそれがある暴行、また高齢者の養護の懈怠、ネグレクト、放置をするということ、それから心理的に著しい外傷を与える行為、そして性的な嫌がらせ、そして経済的な侵害、この五つが考えられると思います。

 アメリカにおきましては、セルフネグレクトというような、本人が全く生きる意欲を失ってしまう、そういう者を放置してしまうというものも定義に入れていると思いますが、なかなか難しい点もあると思っております。また、身体拘束、そして向精神薬の投与など、どこまでを虐待とするか、非常に難しい点がございます。
 この虐待の定義について、西副大臣に御所見をお伺いいたします。

○西副大臣 お答え申し上げます。
 ただいま古屋委員から五類型について概略お話がございました。何をもって高齢者虐待ととらえるかについてはなかなか難しい課題がございますが、私ども、昨年、家庭内における高齢者虐待に関する調査を行いましたが、その際には、高齢者虐待問題に取り組んできた有識者の皆さん、さらには現場で高齢者の介護に携わってこられた関係者の皆さんに御論議をいただきました結果、先ほど古屋委員からも概略お話がございましたように、一つ目には身体的な虐待、それから二つ目には心理的な虐待、三つ目には性的虐待、さらに、特にこの残りは高齢者虐待に特異な問題だと思いますが、本人の合意なしに財産、金銭等を使用するというようなことに関するいわば経済的な虐待、さらには五つ目には、介護や世話を放棄したり放任してしまう、こんなことになります高齢者虐待、この五つの類型をもとに調査をさせていただいたということでございます。

○古屋(範)委員 ありがとうございました。
 先日、我が党がお招きをいたしました横須賀市の中央健康福祉センター草柳所長、また角田主査からお話を聞く機会がございました。

 私は比例区選出でございますが、横須賀市に今住んでおります。この横須賀市におきまして、二〇〇一年から、高齢者虐待防止のために、地域の高齢者の介護に携わる関係者によるネットワーク事業を既に開始しております。市内四カ所にある健康福祉センターを虐待相談の窓口と位置づけまして、虐待相談の記録を集約、また内容の分析、状況把握など、先駆的な取り組みを行っております。二〇〇三年には、石川県金沢市とともに国から高齢者虐待防止のためのモデル事業に指定をされまして、昨年四月には高齢者虐待防止センターを設立し、そこから一月までの間に、実数として百一件、相談が寄せられております。この横須賀市におきましては、独自のマニュアルを作成しまして、このようなものでございますが、大変詳細かつ的確な内容でつくられております。

 この高齢者虐待防止センターは、保健所、社会福祉協議会、長寿社会課、医療機関、在宅介護支援センター、民生委員、老人福祉施設、介護保険サービス提供事業者、また警察、ケアマネジャーなど、地域の関係機関がそれぞれの役割を生かして、協力連携をとりながら支援していくネットワークであります。こうした中で、虐待のサインを見逃さないというようなきめ細やかな事業を行っております。

 しかしながら、この高齢者虐待に対する専門のチームがあるのは、全国の市区町村の中でわずか三%にも満たない七十一の自治体しかないわけであります。厚生労働省が二〇〇五年予算案におきまして、高齢者虐待防止ネットワーク運営事業として三億二千六百万円を計上しております。私はこの新規事業に大変賛成をしているわけでございますが、この取り組みが全国の市区町村に展開できるよう、この予算の増額をお願いしたいと思いますが、大臣の御見解をお伺いいたします。

○尾辻国務大臣 高齢者虐待防止に対しましては、まず早期発見を図るということが大事だと思いますし、その上で、必要に応じて適切な介護サービス等の利用につなげなきゃいけませんし、さらに、状況によっては法的、専門的な介入も行っていく、そうしたさまざまなことが必要になってきます。
 このために、一つには、民生委員や自治会などの地域的なつながり、それから二つ目には、ケアマネジャーや介護サービス事業者などのサービス提供者、それに加えて、弁護士や行政などの専門機関といった、今お話しのように、地域の関係者すべてが参加したネットワークづくりを進めていく、これは極めて重要なことだと思っております。

 そこで、今お触れいただきましたように、平成十七年度予算案においては、地域の総合相談、支援の窓口である在宅介護支援センターを中心に、早期発見・見守りネットワーク、それから保健医療福祉サービス介入ネットワーク、関係専門機関介入支援ネットワーク、この三つのネットワークを構築して運用していく事業を創設することといたしております。

 そこで、今、横須賀のお話もございました。このことについても申し上げますと、そうした先駆的なところがあります。その先駆的なところに対する支援もやらなきゃいけませんし、今度はそれが全国に広がっていくということも必要なことでございますから、この両面で、私どももそれぞれの応援をしながらやっていきたい、こういうふうに思っております。

○古屋(範)委員 ぜひともこの推進をお願いしたいと思っております。
 そして、今国会におきます介護保険制度の改革の中で、地域包括支援センターの創設ということがうたわれております。この地域包括支援センターを高齢者虐待防止の拠点としてぜひ機能させていただきたいと考えておりますが、この点について西副大臣にお伺いいたします。

○西副大臣 お答え申し上げます。
 先ほど大臣からも御答弁がございましたが、高齢者の虐待防止のためには、まず第一に、早期に発見をしていくということ、続いて、必要に応じて適切なサービスを提供していく、それから、さらにその上に、状況に応じて法的にも専門的にも行政並びに関係者が支えていく、この三つの段階が必要であろう、こう思っております。

 委員御指摘のように、今回の介護保険法の改正法案に盛り込んでおります地域包括支援センターは、まず介護予防のマネジメントを行う、そのほかに、地域の高齢者の身体、生活の状況に応じて実態の把握を行っていただいて、さらには高齢者や家族からの相談を受けて必要なサービスにつなげていく、それで、その中で、虐待のケースを抱えているケアマネジャーに対しても必要な助言を行う体制もつくらせていただくことになっております。

 そんな意味で、今後、高齢者虐待の防止の側面においても、各地域で中心的な役割を果たしていけるものだというふうに期待を持っているところでございます。

○古屋(範)委員 ぜひ、この地域包括支援センター、この機能をしっかり果たしていけるよう、よろしくお願いを申し上げます。

 高齢者虐待につきまして、直接防止するための法律は現在ございません。高齢者虐待問題に機能できる制度として、介護保険法また老人福祉法の措置制度、また成年後見制度が一応用意されておりますが、使い勝手がよいとは思われません。また、高齢者虐待を専門に扱う行政機関もなく、虐待防止のための啓発や介護関係者への人権教育、また研修なども、残念ながらほとんど行われていない現状でございます。

 日本はこれまで、児童虐待防止法また配偶者間暴力防止法、DV法、家庭内で行われている暴力行為に対する法的な対応をとってまいりました。そして、最後に残されたのが高齢者虐待の問題であります。

 高齢者虐待の背景には、限界を超える介護へのストレス、また複雑な家庭内の人間関係なども含まれ、虐待を自覚していない家族も多い、また、そうした家族への支援、こういうものが必要であると考えております。虐待防止への、早期発見、また具体的な取り組みが急務であると考えております。

 公明党におきましては、昨年、高齢者虐待防止対策ワーキングチームを立ち上げまして、日本高齢者虐待防止学会の田中理事長を初め、多々良先生、また高崎先生など専門家の方々をお呼びし、その強力な御支援のもと、今まで十数回にわたる勉強を行ってまいりまして、視察、またヒアリングも行ってまいりました。その中で、私は、高齢者虐待の問題は私たち政治家が責任を持って取り組むべき最重要な課題であると考えております。これも、与党としまして、自民党の先生方の御協力もいただきながら法制化を進めたいと考えております。

 尾辻大臣に、この法整備の重要性についてお伺いいたします。

○尾辻国務大臣 今お話しのように、与党においてもさまざまな検討がされております。そうしたことを踏まえまして十分に連携をさせていただいて、私どもも鋭意取り組んでまいりたいと考えます。

○古屋(範)委員 虐待というものは連鎖があると言われております。やはり、児童虐待から、成人になって、親になって児童虐待を行う、またDV、それが高齢者虐待に発展をしていくと言われております。児童虐待防止につきまして、最後にお伺いしたいと思います。

 昨年十一月、児童福祉法改正の折、児童福祉司の配置人員につきまして、児童福祉法施行令の配置基準、現在十万人から十三万人に一人という基準、これによりまして、都道府県によってかなりの格差があるということがわかっております。まず、これをぜひ六万人に一人と改正すべきと要望をいたしました。これは児童虐待防止にとって大変重要な観点であると考えております。

 ぜひとも、四月の改正児童福祉法施行に合わせて、この施行令改正を実現していただきたいと思いますが、この点、いかがでございましょうか。

○尾辻国務大臣 かねて委員にも御指摘いただいておりますので、そのように四月一日に合わせて政令の改正を実施できるよう、現在、関係省庁と相談しつつ作業を進めておるところでございます。

○古屋(範)委員 前向きな御答弁、大変にありがとうございます。
 今後とも高齢者の人権擁護をさらに推進していただくよう強く要望いたしまして、質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

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