第162回国会 衆議院 厚生労働委員会 第35号

○古屋(範)委員 公明党の古屋範子でございます。
 きょうは、アスベスト被害について、先ほどの井上委員と重複する部分もございますが、順次質問を行ってまいりたいと思います。

 今、各種のアスベスト製品を過去に製造していた工場、またその家族、また工場付近の住民など、がんの一種である中皮腫で死亡するという事例が相次いで報告をされております。一九七〇年代をピークに大量に輸入されている、また使用されていることからも、今後発病者がふえる可能性が懸念をされております。

 私の地元横須賀市、造船とは切っても切れない都市でございますが、ここの造船所に勤務をしていた夫の妻三人が中皮腫で死亡していたことが明らかとなりました。横須賀共済病院また横須賀市立うわまち病院の共同研究グループが三十年間にわたりまして診察をしてきた患者の追跡調査によりますと、夫が自宅に持ち帰った作業着をはたいたりして洗濯して、その際にアスベストを吸い込んで発症した可能性が高いと言われているわけでございます。このうわまち病院の副院長によりますと、今まで六十四人の中皮腫の患者を治療してきたけれども、そのうち六十二人はアスベストを吸い込んでいる経歴があるとおっしゃっていたわけであります。

 こうしたアスベストの健康被害の拡大がどこまで広がっていくのか、現在想像がつかないところでございます。しかし、これまでと大きく異なるのは、被害者が、アスベストを直接扱った、仕事として扱った人だけではなくて、周辺にまで大きく今広がっているということでございます。長い潜伏期間があるということでありますので、また、一般の医療機関ではこうしたことがなかなかわかりづらかったというのが現状であります。

 今、この被害の広がり、今後、五年後また十年後、どのような被害を及ぼしていくのか、はかり知れないということでございます。この被害が一体どこまで広がるのか。先日、八日には、二〇〇八年までには全面禁止とされていますけれども、このアスベストの危険性を考えますと、これは即刻禁止にすべきであると思います。

 この危険性の指摘があるのに、それを過小評価して、問題を先送りしていたのではないか。やはり私も、水俣病また薬害エイズを思い起こさずにはいられないわけであります。行政の怠慢がこのアスベストにも繰り返されたのではないか、このように思いますが、この点についての御認識を伺います。

○西副大臣 お答え申し上げます。
 地元横須賀の事例も引かれましてお話がありましたけれども、特に、今回、私ども大変大きな問題だと思いますのは、アスベストを使用している工場内、または、例えば現場で作業をしてアスベストに近く、始終触れている、そういう労働者の皆さん、いわゆる労働災害という側面から、それだけではなくて、周辺の地域住民の皆さんがそのことによって同じくアスベスト、石綿の被害に遭われたという、この事態を大変重く受けとめているところでございます。

 そういう意味で、石綿による健康被害が大きく増加をしているということは、これはマスコミの皆さんによる大きな報道以前から、数年前から若干そういう傾向があったことは事実でございまして、このことについてもやはり大きな問題だというふうに考えているところでございます。これまでの我が国における石綿の使用状況等を考えますと、今後もこの被害はふえていくのではないかという大変大きな危惧を抱いているところです。

 今回のことがございまして、実は緊急に研究班を立ち上げさせていただきました。そして、人口動態調査等を活用して、中皮腫で亡くなられた方の症例がありますが、その症例で、まず職業、それから石綿暴露と中皮腫との関係はどうなんだろうか、先ほど横須賀の例をおっしゃっていただきましたけれども、本格的に調査をしたい。つまり、中皮腫でお亡くなりになられた方が、いつ、どういうときに具体的に石綿の暴露があったのかということをきっちりと調べていきたい、こういうふうに思っております。

 それから、もう一つ大きな問題は、これは大変厳しい病気でございまして、そんな意味で、治療法それから今までの治療成績等につきましても早急にまとめ上げていきたい、こういうふうに考えております。

 そのことによって実態の把握を進めていきたいということで、本年度の厚生労働科学特別研究の中で、急遽専門家に集まっていただいてこの中皮腫の問題についての解決を図っていくというふうに決断したところでございます。

○古屋(範)委員 その調査研究また迅速な対応というものをぜひともよろしくお願い申し上げます。
 次に、医療体制の確立についてお伺いをしてまいります。

 公明党も、先日十二日に、冬柴幹事長を顧問に、また井上政調会長を本部長に、アスベスト対策本部を設置いたしまして、十三日はクボタの旧神崎工場、また、十四日には第一回目の会合を開きまして、こうした因果関係の解明を踏まえ、立法措置も含めた具体策を今検討しているところでございます。

 私も、先週、地元の横須賀市立うわまち病院に、具体的な健康被害の状況などを聞き取りに行ってまいりました。このアスベスト疾患に詳しい三浦副院長は、中皮腫に対する知識が乏しい医師が多い、さらに、ふえているが、悪性中皮腫の確定診断に必要な免疫染色検査ができる医療機関がまだ限られていると指摘をされております。今後も中皮腫の患者は間違いなくふえる、複数の医師で協議して診断できるような体制を構築する必要があるのではないかとおっしゃっています。

 患者の急増が予想されますが、一刻も早い実態調査とともに、的確な診断ができる医療機関、医師の確保、またその情報公開、複数の医師で協議して診断できる体制などの整備が早急に求められていると思いますけれども、この点はいかがでございましょうか。

○青木政府参考人 今後行政の怠慢があってはならないというのは、おっしゃるとおりだと思います。
 潜伏期間が長い石綿による健康被害については、やはり息長くきちんと管理をしていくということが大切だと思っております。同時にそれは、医学的な面での対応というものも当然伴ってくるものだというふうに思います。

 今、現状で申し上げますと、独立行政法人労働者健康福祉機構が設置しております労災病院におきまして、従来から、石綿による疾病に対する診断、治療、特殊健診などを行ってまいりました。今般、こういった健康被害に対する関係者の不安に対応するために、労災病院のこういった機能を活用いたしまして、新たにそこに相談窓口を設置いたしまして、石綿暴露歴のある労働者等からの相談を受け付けることといたしております。

 それからまた、全国四十七都道府県に設置されております産業保健推進センターにおきましても、産業保健の関係者あるいは石綿暴露歴のある労働者それからその家族の方からの健康に関する相談も行っているところでございます。

 さらに、労働者健康福祉機構におきましては、全国の労災病院で診断、治療を行いました石綿肺がん及び中皮腫の症例につきまして、過去にさかのぼりまして分析する研究を行って、今後の療養に役立てることといたしております。

 先ほど副大臣からも申し上げましたように、新たな研究班も立ち上げて調査研究を行うこととあわせまして、そういった医療体制の整備にも努めていきたいというふうに思っております。

○古屋(範)委員 ぜひもっと、専門家による早急な体制というものを確立していただきたいと強く要望いたします。

 次に、労災認定について伺ってまいります。
 今回、国は、廃業した工場も含めアスベストを扱った事業所などの実態調査をして、退職者を含めた従業員や家族またさらに周辺住民の健康調査の実施、健康相談窓口の開設等を行うという方針を示していらっしゃるということでございますけれども、やはり国の対策は後手に回っているのではないかと思うわけであります。せめて、今、労働者や工場周辺住民の不安を解消するためにも、国は一刻も早くアスベスト被害の実態を詳細に調査して、見過ごされていた被害の救済に乗り出すべきであると申し上げたいわけでございます。

 また一方、労災認定者が非常に少ないということがございます。
 アスベストが原因と見られる中皮腫による死亡者、これが二〇〇三年では八百七十八人いるということでございますが、このうち労災認定されている人は八十三人でございます。なぜ、アスベストに起因すると見られる中皮腫の労災認定者が実際の死亡者の一割にも満たないのか。大手メーカー、クボタの旧神崎工場のように、アスベストの飛散によると見られる住民被害が見落とされているというふうに想像されるわけです。国は、アスベスト労災の増加もアスベストの公害化も予想できたのではないか。

 さらに、労災申請には、死亡の場合、その翌日から五年以内に遺族の申請がなければ時効になってしまうという問題が存在いたします。

 今回、厚生労働省は、労災補償制度及び健康管理手帳制度の一層の周知徹底を図るとの対応を示されていますけれども、現行制度では、がんなどを発症するおそれのある業務についたことのある人が、退職後、国から健康管理手帳が交付されて、年二回健診を無料で受けられることになっている。

 アスベスト関連の業務は一九九六年から対象とされています。ただし、アスベストを吸った経験があるだけでは手帳はもらえない、胸部エックス線写真で陰影が見つかるか、あるいはアスベストを吸い込んだ人に特有の胸膜肥厚ができているという厳しい条件がついているのです。うわまち病院の三浦副院長は、肥厚に関しては通常のエックス線写真では見つけるのは困難であるともおっしゃっています。また、肥厚が生じるのはアスベストに接して約十五年後、退職時には見つからずに手帳の交付対象外となっている、その後、肥厚ができることもあるわけです。継続的に観察が必要なはずの人たちに手帳が行き渡っていないというのが現状であります。

 ここで、企業が労働者にアスベストの危険性を告知していない場合、また、医師が中皮腫とアスベストとの関係を患者に告げていない場合は労災申請に時効を適用しないなどの例外規定を設けるべきではないかと思います。また、この制度を有効に活用するため、例えば、アスベストを三カ月以上吸った経験などを基準に手帳を交付するなど、交付基準も見直しをすべきではないかと考えます。さらに、中皮腫や肺がんなどで死亡した従業員については、アスベスト作業との関連が確認されれば、すべて労災認定を行い救済を図るべきだろうと考えますが、この点について御見解をお伺いいたします。

○青木政府参考人 確かに、中皮腫なりで健康被害を受けられた方と労災認定の数あるいは健康管理手帳の数というのには乖離があるというふうに思います。これはさまざまな原因があると思いますけれども、私どもとしては、対象になるような方についてはきちんと周知もし、関係者への理解も求めながら、それからこれは何分にも、労災認定になりますと、非常に潜伏期間も長くて、昔のことでありますので、そういったことについての認定のやり方などについても十分配慮をして、救われるべき者は救われなければならないということで基本的な事務を進めていきたいと思っております。

 今お話がありました時効との関係でありますけれども、これについては、労災保険法により、労働者の死亡という支給事由が発生した日の翌日から五年を経過したときは時効により消滅するというふうになっておりますので、これは労災保険法上そういうふうに規定されておりますので、いろいろな事情が、個々人の御事情がある場合でありましても、石綿による疾病についてのみ運用で例外的な取り扱いをするというのは困難だと考えております。

 健康管理手帳につきましては、今るる委員から御紹介ありましたようなことでやっておるわけでありますけれども、平成七年の専門家の対象業務についての検討会の報告においても、委員が御指摘になりましたような二つの要件ということを言っておりますが、最新の知見に基づいて必要な見直しというのを行っていくということは重要だと考えておりますので、石綿暴露による医学的な所見について専門家による調査研究を早急に行いまして、その結果に基づいて、健康管理手帳制度を含めまして健康管理のあり方について検討していきたいというふうに考えております。

○古屋(範)委員 昭和四十七年、WHO、ILOがアスベストとがんとの関係を確認したと発表しておりますが、もしそのときにかなりの大きな周知徹底、国民へのそういったPRがあれば、この方たちは、がんになってまでこの仕事を続ける必要はないとみずからその職場をやめるという選択肢もあり得たのではないかと思いますと、やはり早急な対応というものを求めてまいりたいと思っております。

 次に、先ほども質問がありましたけれども、公害認定について質問をしてまいります。
 このように、作業を行っていた労働者だけではなく周辺住民また家族へ被害が広がっている、このようなことも考えますと、公害認定というものが必要なのではないかと考えるわけでございます。環境基本法第二条第三項には、「この法律において「公害」とは、環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁」「及び悪臭によって、人の健康又は生活環境に係る被害が生ずること」とありますけれども、公害とはまさしく今回のような場合を指すのではないかと思います。

 拡大するアスベスト被害につきまして、公害による健康被害と認定される必要があるのではないかと考えますが、この点について、環境省さんにぜひ前向きな御答弁をちょうだいしたいと思っております。

○滝澤政府参考人 公害健康被害補償法の関係でございますが、この法律の趣旨といたしましては、今御指摘もありましたように、相当範囲にわたる著しい大気汚染等の影響による疾病に対しまして、汚染原因者の負担による補償給付を行うというのが制度上の趣旨でございます。

 そこで、目下の対応といたしまして、アスベストによる周辺住民への健康被害の問題についてでございますが、まず、基礎的な情報収集を行うことが重要であると考えまして、環境省といたしましても、七月の十二日付で都道府県知事、保健所設置市長に対しましてお願いをいたしております。保健所等において健康相談を通じて得られた一般環境経由であることが疑われる事例、つまり、特定の工場とかそういうことではなくて、一般環境経由であることが疑われる健康被害について、ぜひ情報提供をしてほしいというお願いをしておるところでございます。これらの情報をもとに、アスベストの被害につきまして、専門家からの専門的、科学的助言もいただきながら、今後分析をしていくということでございます。

 また、関係省庁、経済産業省等におきましても、並行してアスベストの被害についてさまざまな調査を実施しているところでございまして、そうした調査全般の情報収集を通じまして、必要に応じ、公健法の趣旨に合致するものかどうかなどを慎重に見定めてまいりたいと考えております。

○古屋(範)委員 ぜひ前向きな御検討をよろしくお願い申し上げます。

 次に、学校内でのアスベスト対策について伺ってまいります。
 文部科学省は、小中学校の校舎内のアスベスト使用が問題になった一九八七年の調査の際、公立の小中高一千三百三十七校で吹きつけアスベストが使用されていると確認をしています。昨年度まで一千一校が除去をしたそうでありますが、残りの三百三十六校については把握されていないということでございます。

 この吹きつけアスベスト、老朽化し、また振動し、飛散する、それをまた子供たちが掃除する、健康被害が非常に心配されるわけでありますが、文部科学省は、当初の再調査はしないとの見解を覆しまして、今月下旬に全国の学校施設の調査を行うと発表されています。

 私は、子供の健康を守るために、早急にアスベスト除去の現状を詳細に調査し、その後の対策は徹底しているのか点検するとともに、学校現場の適切な指導を行うなど、強力な実効性ある対応をすべきと考えております。再調査後の対応策はどのように考えていらっしゃるのか、お伺いしたいと思います。

○大島政府参考人 お答え申し上げます。
 ただいま先生御指摘のように、文部科学省におきましては、学校施設それから公営住宅等におけるアスベスト使用がいわゆる社会問題となった昭和六十二年当時に調査を行っております。御指摘のとおりでございます。それらをベースにいたしまして、学校施設に使用されたアスベストの除去等のための補助制度を設けるなど、アスベスト対策をこれまで実施してきたところでございます。

 先ほどお話がございましたように、文部科学省におきましては、昨今、事業所等でのアスベスト被害が社会問題化している、こういった状況にかんがみまして、子供たちの安全対策に万全を期すという観点から、このたび、改めて公立学校施設におけるアスベスト使用状況等の全国調査を実施することとしたところでございます。

 全国の公立学校におきまして子供たちが安心して学び、生活できる環境が確保されるよう、調査結果を踏まえまして、文書による指導、会議等における周知徹底、あるいはアスベスト対策に対する国庫補助による財政支援といったものを通じて除去などの対策、これらを速やかに行えるような適切な対策を講じてまいりたいと存じます。

○古屋(範)委員 子供たちは学校の外に出ていくことはできないわけであります。子供たちの健康、命を守るために、ぜひ早急な対策をとっていただきたいと思います。

 最後になりますけれども、一九七〇年代からこのアスベストが大問題となりまして、八〇年代にはアメリカではアスベストの集団訴訟が相次ぎまして、その規制が強化されている欧米に比べて、やはり日本ではその取り組みが常に一歩おくれていたと言わざるを得ません。

 そして、全面禁止には二〇〇八年までかかると言われているわけでありますけれども、国として、患者の急増に備えて健康被害に対する新たな救済制度を考えるべきではないか、アスベスト被害根絶に向けまして、強い責任を感じるとともに、ぜひ厚生労働省また副大臣の強力なリーダーシップのもと、各省庁間の垣根を越えて被害者の救済体制の確立、また今後の被害防止への取り組みに政府一丸となって強力に推進をしていただきたい。副大臣の力強い御決心をお伺いいたします。

○西副大臣 お答え申し上げます。
 今委員から御指摘が若干ありましたけれども、私は、今回のことを通して二つの問題をやはり考えていかなければならないんだろうと思います。

 一つは、三十年から四十年前に石綿に暴露して、そして今現在既に発症している、また近々発症する可能性のある、そういう人たちの治療といいますか、健康問題をどうしていくかという喫緊の課題がございます。それと、今現在のこのアスベストの問題を、将来にわたってこれはきいてくる課題でございますから、これをどうするか。この二つの課題を解決していかないと、アスベスト問題の解決にはならないというふうに思っております。

 いずれにいたしましても、大変重要な問題だというふうに考えておりまして、さらに、今私どもが所管する労働災害における救済措置以外に、それ以外の皆さん方が被害に遭われているという新たな課題も出てまいりました。既に熱心に関係省庁、今聞きますと、二日に一回、三日に一回ぐらい集まって、それぞれの省庁の情報を持ち寄りながら対応を考えているところでございますけれども、そういういわば一般の皆さん方に対するどういうふうな救済の方法があるのかということも含めまして、早急に私どもとして頑張ってやってまいりたいと思っているところでございます。

○古屋(範)委員 以上で質問を終わりにいたします。ありがとうございました。

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