第168回国会 厚生労働委員会 第4号

○古屋(範)委員 公明党の古屋範子でございます。

 本日は、労働契約法案、最低賃金法改正案を中心に質問してまいります。

 まず、労働契約法案について伺います。

 政府案の個々の規定の内容につきましては、さきの通常国会におきまして既にお尋ねをいたしております。本日は、法案のねらい、また基本的な考え方につきまして確認をいたしたいと思います。

 就業形態や就業意識の多様化が進みますとともに、成果主義賃金など、労働者ごとに個別に労働条件を決めるケースがふえる中で、労働条件をめぐる紛争、特に、会社対従業員、個人という形の紛争が構造的にふえています。

 これまでの我が国の労働法の体系は、大まかに言えば、最低基準のみを労働基準法で定め、そこから上でどのように労働条件を決めるかは、ある意味、労使間の話し合いにゆだねる、そのために労働組合法などによって会社対組合の協議のルールをつくるという考え方であったかと思います。そして、この会社対個人の問題は、いわば法律の空白地帯となり、そこを裁判の判例がカバーしてきたと言えるかと思います。

 しかし、裁判所の判例を普通の人や会社がフォローし続ける、これは大変難しいことでございます。人々が安心して働くために、やはり会社対個人の関係につきましても、基本的なルールを法律にして定めるべき時期に来ていると考えます。また、そのルールはわかりやすく、労使双方が理解し納得できるものである必要があると考えます。

 政府案も、そのような認識のもとに提案をされていると思いますけれども、政府案の労働契約法のねらい、基本的な考え方をお伺いいたします。

○青木政府参考人 政府案のねらい、基本的考え方は、まさに委員がおっしゃったとおりでございますけれども、個々の労働者と使用者との間の紛争が非常に増加基調でございます。安心して労働者が働くことができるように、基本的なルールを明確にすることが必要であるというふうに、おっしゃったとおりでございます。

 このため、労働契約法案では、労働契約は労使当事者が対等の立場における合意に基づいて締結されるべきという契約の原則、理念、そういうものを定めたり、あるいは、労働契約の成立、変更は労使当事者の合意が原則で、就業規則による労働条件の変更は合理的なものであることを要するなど、労働契約に関する基本的なルールを明確化したものでございます。

 これによりまして、労働契約に関する基本的なルールが周知をされまして、使用者の合理的な行動が促されるということになるだろうと思いますし、また、そういう意味で、紛争の未然防止に資することとなるというふうに思っております。結果的には、最終的には、労働者が安心、納得して働くことができるようになるというふうに考えております。

○古屋(範)委員 労働者が安心し、納得できるための本法律案の一日も早い成立を望むところでございます。

 次に、民主党案につき質問いたします。

 民主党案は、政府案と似通った規定もございます。しかし、全体としては、実務から大きくかけ離れた、問題のある規定があると考えております。特に目につきますのは、労働契約の締結や変更が、さまざまな局面で使用者に書面による明示を義務づける、そういう手続の規定が多いことであります。

 具体的に申し上げますと、まず第八条第二項、募集、採用時の健康診断は、健康診断項目ごとに当該健康診断を実施する理由を書面明示しなければならない。あるいは第十二条第一項、試用期間を設定するときは、試用期間の期間や本採用のための適格性を判断する基準を書面明示しなければならない。第三十八条第二項には、有期労働契約を締結するときは、契約期間、期間の定めをする理由、期間満了後における更新の可能性の有無、更新するしないの判断基準などを書面明示しなければならないなど、枚挙にいとまがないわけでございます。そして、書面明示を怠れば、例えば労使双方とも有期労働契約ということで一たん合意していても、一律に期間の定めのない労働契約とみなされてしまう仕組みとなっております。

 もちろん、労働条件の取り決めをめぐって、後から言った言わないの争いになることも多いので、大事なことはできる限り書面で確認し合うということが望ましいわけであります。私もこれには一般的には賛成でありますし、現に政府案にその旨の規定も盛り込まれております。

 しかしながら、民主党案のように、会社が書面明示を失念したばかりに、労働期間の定めがなくなったり、いきなり本採用になってしまうというのは、少し行き過ぎではないのか。人事部門また総務部門が整った大企業ならいいのですが、中小零細企業、たった一人で、あるいは経営者の妻がこうした総務や経理万般を任されている、そういう企業も多いわけでございます。中小企業の現場にこの規定を適用される場面を思い浮かべますと、やはり使用者のミスに対して制裁が重過ぎるのではないか、このような感がいたします。

 労働契約内容の書面確認については、政府案のように、まずはできる限り書面確認しようというところから始めて、周知啓発を進めることによって徐々に実務に浸透させていくというやり方が現実的ではないかと考えます。この点に関しまして、民主党の提案者にお伺いをいたします。

○細川議員 お答えいたします。

 労働契約の内容の確認や書面で明示をするということは、労働者と使用者が対等な立場に立って、十分な情報と自由な意思に基づいて労働契約について合意をすることができるようにするためには、どうしても必要不可欠なものだと考えております。

 さらに、こうしたことによりまして労働契約の内容を明確なものとしておいたら、個別の労働紛争の発生自体を防止することもできますし、問題が生じた場合に、労働者、使用者の当事者が迅速かつ自主的に解決することができるようにするためにも、やはり明示ということは必要不可欠だというふうに考えております。

 ただいま先生の方からは、中小企業の関係などにも、こうしたルールについては徐々に浸透させるやり方が現実的ではないかというふうにも御指摘をいただきましたけれども、民主党案では、こうした点を踏まえまして、政府案の方では施行期日が公布から三カ月、こういうことになっておりますけれども、私たちは、ちょっと大幅にとって、一年間の余裕をとりまして、公布の日から一年以内に施行をする、こういうことにしております。

 民主党案が成立いたしましたならば、施行日までの間に十分な周知啓発を行いまして、十分に行き渡るようにと考えておりまして、中小企業、零細企業がついていけるのかという御懸念はないのではないかというふうに私どもは考えております。

    〔宮澤委員長代理退席、委員長着席〕

○古屋(範)委員 ただいまお答えいただきましたけれども、やはり懸念はあると考えます。それも、一年以内に果たしてそれが周知徹底、また実行可能なものなのか、やはりこれは現実的ではないな、この感が否めないわけでございます。

 次に、最低賃金法改正案についてお伺いをしてまいります。

 さきの通常国会では、政府が提出をいたしました最低賃金法改正案について議論が行われたところでございます。私としても、この政府提出案につきまして、三十九年ぶりとなる抜本的な改正である、働く人々のセーフティーネットとして十分に機能し、所得格差の是正に資することができることを期待しているところでございます。前任の柳澤大臣からも、最低賃金の引き上げに取り組む強い御答弁もいただいております。

 改正法案につきましては、現在こうして審議が行われておりますが、今年度の最低賃金額の改定につきまして、昨年の時給平均五円だったものが十四円という例年を上回る引き上げが実現したものと考えております。今後もこの最低賃金の引き上げに取り組まれる大臣の御決意をお伺いいたしたいと思います。

○舛添国務大臣 今委員がおっしゃいましたように、まさにセーフティーネット、安全網としてこの最低賃金がある。そして、ことしは、前年の五円に比べて十四円上がった。

 私は、経団連とも連合とも常に議論をし、常に意見を交換しております。政労使一体となって経済成長を図りながら、その果実をきちんと働く人たちに与える、それは当然の権利である、そういう思いで、長期的な戦略も持って政労使の対話を進めているところでございますので、ぜひ改正案を実現させていただいて、本当に働く人たちにとって安心できる日本の国づくりをしたい。福田内閣のスローガンは希望と安心でございます。

○古屋(範)委員 大臣の御決意を伺うことができました。やはりこうした成長の果実が、大企業から中小へ、そしてそれが一人一人の働く方々へ、トリクルダウン、行き渡っていくことを私も望むところでございます。

 次に、民主党案についてお伺いをしてまいります。

 働いている側にとっては賃金が高い方がいいに決まっております。最低賃金は、罰則をもってその支払いを義務づけるものでございます。現下の国民経済あるいは地域の経済情勢といったマクロ的な視点も含めて、慎重な検討の上に決定されるべきものと考えます。

 民主党におかれましては、各地域の最低賃金について全国平均千円を目指すとして改正法案を提出し、この法案につきましては、地域別最低賃金の決定の考慮要素から、労働者の賃金及び通常の事業の賃金支払い能力を削除することとしております。

 しかしながら、これは極めて問題のある内容と考えます。特に、通常の事業の賃金支払い能力を削除するのであれば、例えば、経済情勢が悪化している中で、厳しい立場に置かれた中小零細企業の経営実態を全く無視した水準にまで最低賃金が引き上げられてしまう、こういうおそれがあると思います。民主党案は、最低賃金の決定要素から通常の事業の賃金支払い能力を削除することで、中小企業を初めとした企業経営に悪影響を及ぼす可能性があると考えます。

 なぜ賃金支払い能力を無視して最低賃金を決定しようという提案をなされたのか、これについての御説明をお伺いいたします。

○細川議員 現行の最低賃金法に基づいて決定される最低賃金額は、委員が今お話しされましたように、労働者の生計費に加えて、類似の労働者の賃金、通常の事業の賃金支払い能力をも考慮するというようにされております。

 しかし、これらのことを考慮することによって、労働者の生計費の高い都市部におきましては、生計費を下回る最低賃金額の設定を許容する、こういうような現状となっておりまして、労働者の最低限度の生活水準を保障するものではないということは否定できないところでございます。

 民主党案におきましては、最低賃金額は、最低限、労働者とその家族の生計費程度の額となるようにするために、全国最低賃金及び地域最低賃金の基準につきましては、類似の労働者の賃金、それと通常の事業の賃金支払い能力、このことについては規定を取りまして、全国、地域最低賃金は労働者及び家族の生計費、これを基本として定めなければいけない、こういうことにしたところでございます。

○古屋(範)委員 今お答えいただきましたけれども、労働契約法案、最低賃金法案について、政府案また民主党案の質問をさせていただきましたけれども、やはり政府案の方がより現実に即した適切な内容であると考えます。政府提出の労働三法をぜひとも早期成立させるべき、このことを最後に申し添えておきたいと思います。

 引き続きまして、今般発表になりました調査結果について、二問質問をさせていただきたいと思います。

 先週金曜日、十月二十六日に厚労省より、周産期医療ネットワーク及びNICU、新生児集中治療室後方支援に関する実態調査結果が公表されました。この件につきましてお伺いいたします。

 私は、昨年の十二月でありますけれども、本委員会におきまして、周産期医療ネットワークが未整備であった奈良県での妊婦死亡問題を踏まえまして、この一因としてNICUが満床であったことを指摘いたしました。そして、周産期医療を取り巻く厳しい状況の改善に向けて、NICUの整備状況、実質どのくらい機能しているのか、全国的な調査をすべきと訴え、局長からは早急な全国調査をしていくとの御答弁をいただいたところでございます。そして、今回ようやくこの調査結果が発表となりました。

 その中で驚くべきことは、妊婦や新生児の搬送受け入れ状況を見ますと、リスクが高い妊婦や新生児に二十四時間対応する各地の総合周産期母子医療センターを対象に実施されたものであるにもかかわらず、十七年度中、回答施設の約七割が母体搬送を断っています。新生児の搬送も六割が断った経験があるということが明らかとなりました。

 また、消防庁から発表された調査結果でも、昨年、救急隊が妊婦を搬送しようとして医療機関に三回以上受け入れを拒否されたケースは三十都道府県で六百六十七件、一回以上断られた妊婦は昨年の一年間で二千六百六十八人いたことがわかりました。

 この件につきまして、まず、大臣の率直な御感想をお伺いいたしたいと思います。

○舛添国務大臣 私も現場を見まして、産婦人科の中でも新生児のお医者さんが足りない、NICU、これが極めて未整備である。そして、そこでケアを受ける生まれた赤ちゃん、これはかなり長期間いないといけない。お母さんもそうです。絶対的に不足していますね。ですから、何とかこの側面をよくしたいというふうに思っています。

 それから、いわゆる妊産婦のたらい回しということですけれども、これは調査すると、一回だけでちゃんと次に搬送された方が多い。しかし、一番問題は、正常分娩は問題ありませんが、近くで処置できない、さらに高度の周産期のセンターに行かないとだめだ、そのときに断られるということが非常に多い。見ますと、一番の多い理由は、処置が困難だ。つまり、その能力を持ったお医者さんとかチームとか、オペができない、それからまさにオペ中である、こういうことですから、私はここにメスを入れるべきだというふうに思っていますので、この結果をもとにして、きめの細かい手を打っていきたいと思います。

○古屋(範)委員 最後の質問になりますけれども、今、大臣の救急医療に対する強い御決意を伺うことができました。

 今回の厚労省の調査結果を見たときに、新生児の搬送依頼を断ったセンターの九割が、集中治療室、NICUの不足を理由に挙げています。NICUの利用率は、五十三施設が回答しておりまして、九割、四十九施設が八〇%を超える、そのうち六施設は一〇〇%を超えている。大半の施設が常にNICUが不足であるということでございます。

 また、NICUの後方病床を四十一以上持っているセンターは一施設しかない、約八割のセンターが十から三十以下にとどまっている。自治体のNICU後方病床の充足状況に関する所管部局の意識調査では、回答した三十自治体中八割以上の自治体で不足していると回答しております。

 その主な意見といたしまして、呼吸管理可能な慢性期病床の不足、また医療スタッフの不足、経済的支援の充実の必要、在宅ケアの支援体制の必要、後方支援にかかわる医療機関、後方支援施設との連携体制の必要等の意見が出されております。

 昨年十二月の質問の際にも、NICUが満床に近い状態である、一年、二年あるいはもっとそれ以上長きにわたりNICUにいる長期の患者がいるということを指摘させていただきました。危険な状態の妊婦の受け入れを要請されながら、総合周産期母子センターでNICUが満床、人手不足のために受け入れを断らざるを得ない、こういうケースが全国にあるわけであります。

 この調査結果に基づき、やはり厚労省は、周産期ネットワークの中心となる総合周産期母子医療センターの設置、各都道府県に任せ切りではなく、またその整備ができるよう指導助言を行うべきと考えます。

 私がここで申し上げたいのは、やはり第一義的にはNICUが不足をしている、そしてその次に、急性期の未熟児、新生児の治療、救命という本来のNICUの使命を果たすために、呼吸管理も可能である、長い間慢性的な集中治療を必要とする患者のための後方支援施設、これが必要だと考えているわけでございます。NICUの後方支援施設、この整備拡充につきまして、厚労省の御所見をお伺いいたします。

○大谷政府参考人 お答え申し上げます。

 ただいま御指摘いただきましたように、先般公表いたしました周産期医療に係る実態調査によりまして、今お話のありましたようなNICU病床の不足、またその後方支援の体制の整備の必要、こういったものが浮き彫りになったところでございます。

 もうちょっと具体的にその原因等を分析してまいりますと、NICUの病床利用率が高い、あるいは満床で搬送ができなかったということにつきましては、NICUの病床数自身の問題、また医師を初めとする医療従事者数の問題、それから医療機関の経営上の問題、こういったさまざまな問題が考えられるわけであります。

 まず、このような状況を改善するために、最初のポイントといたしましては、各地域における医療施設それから福祉施設の適切な整備あるいは連携というものの構築をする必要がありまして、これについて、各都道府県に対して、長期入院児の状態をよく精査した上で、現在存在する医療、福祉の資源の具体的な活用ということを検討してもらうように促してまいりたい、第一義的にそれに取り組みたいと考えております。

 また、これに加えまして、現在、省内の関係局、多々ございますが、関係各局におきまして、このNICU対応のための連携を強化しようということで、今具体的な対応策を検討している最中であります。さらにまた、重症心身とかそういう施設、あるいはNICU病棟から、それを在宅でケアしていくという方法も考えられないか、こういった検討もしているわけであります。

 なお、この問題につきましては、平成十八年の四月に診療報酬の改定をいたしまして、重症心身障害児施設を含めたNICU後方支援施設の運営に資するような入院医療管理料等の大幅な引き上げということは行ったわけでありますけれども、こういったことに加えて、今申しましたような対応をいたしまして、今後ともNICU長期入院児に対して適切に対応できるよう対策を講じてまいりたいと考えております。

○古屋(範)委員 この後方支援施設の拡充、ぜひともお願いをしたいところでございます。

 先日も東京女子医大楠田教授より、女性の出産年齢が高くなっている、あるいは不妊治療、さまざまな理由はあろうかと思いますが、現実には低体重児がふえているわけでございます。そういう中にあって、産科、新生児医療、また小児医療、それぞれ成り立つような集約化とネットワーク化が必要である、そのようにもおっしゃっていらっしゃいます。私たちは、NICUの後方支援の拡充こそ、やはり救急医療の拡充につながるというふうに思っております。

 またもう一つ、最近の問題として、飛び込み出産が非常に多くなっているわけでございます。かかりつけ医がない、健診をしていない妊婦がふえているという問題がございます。なぜ健診が受けられないか。やはり経済的な理由が大きいかと思います。出産までに十三回から十四回受けなければいけない。一回一回、健診料は高いわけであります。そうした負担を軽減していかなければならない、そのためにもやはり行政による経済支援が必要、このように私どもも主張いたしまして、五回程度、各自治体において公費負担、無料健診が受けられるように、このことも取り組みをしている最中でございます。

 これにつきまして、おとといでありますけれども、調査結果が発表となりまして、この公費負担、無料健診の回数、全国平均二・八回でございます。まだまだ五回に届いていないのが現実でございます。厚労省、改めて市町村に徹底を求めたい、このように考えます。また、自分の住んでいる市町村内ではなく、里帰りなどで遠隔地に行って健診を受けた際にも、やはりこの制度が生かされるような仕組みを織り込んだ制度づくりを各自治体ともに確立をしていきたい、このように考えます。

 以上で質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

Follow me!