第169回国会 青少年問題に関する特別委員会 3号

○古屋(範)委員 公明党の古屋範子でございます。

 本日は、この四月から改正法が施行されました、子供を守る取り組みが期待をされております児童虐待防止対策について質問をしてまいります。

 子供を取り巻く状況は、年々厳しさを増しております。その根底には、少子社会、子供が少ないということがあろうかと思います。少年非行、いじめ、不登校、校内暴力、引きこもり、また児童虐待、ニート、フリーター、格差問題のほか、新たな問題も生じております。

 携帯電話やインターネット利用の急速な普及によりまして、生活環境の変化は子供の行動にも影響を及ぼしております。例えばいじめにいたしましても、新たにネット上のいじめが社会問題化をしております。また、携帯サイトから犯罪に巻き込まれる例も後を絶たないという状況でございます。その中でも、児童虐待の問題は深刻さを増していると考えております。

 中でも、平成十八年度の児童相談所が対応した虐待相談件数は三万七千三百二十三件に上っておりまして、十年前に比べますと、何と十三倍近くもふえております。絶対数そのものもふえているかと思いますし、また、児童虐待防止法ができたことによりまして、水面下にあったものが顕在化をしてきたということも言えるかと思います。

 その内訳でございますけれども、全体の四一・二%が身体的虐待、次いでネグレクトが三八・五%、心理的虐待が一七・二%、性的虐待も三・二%に上っております。被害児童の年齢は、全体の半数近くが就学前の乳幼児、小さな子供でありまして、小学生が三八・八%、中学生では一三・九%となっております。

 さらに、昨年一年間に全国の警察が摘発をいたしました児童虐待事件は、前年比一%増の三百件、統計を取り始めた平成十一年以降でも最も多いことが報告をされております。

 また、「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」という報告がこの三月二十七日にされておりますけれども、平成十八年一年間で、児童虐待で死亡した子供は百件、百二十六人に上る、心中以外では五十二例、六十一人、心中では四十八例、六十五人、心中が非常に多いという印象でございますけれども、このような調査結果が発表をされております。

 大臣に、初めにこうした児童虐待についての御認識をお伺いいたします。

 そして、児童虐待撲滅を目指しまして、公明党は平成十二年四月に七十四万人の署名を行いました。虐待防止に向けて法整備や市町村での防止ネットワークづくりなどを首相に要望するなど、虐待防止法の成立に一貫して取り組んでまいりました。また、通告義務の適用範囲の拡大、警察の関与を強化した平成十六年の法改正にも取り組んでまいりました。

 昨年五月に成立し、この四月から施行となりました改正児童虐待防止法では、児童虐待への対応で中心的な役割を担う児童相談所の権限が大幅に強化をされております。この新制度が迅速また効果的に運用できますよう、児童虐待の防止が図られる取り組みがさらに強化されることが重要であると考えております。

 ここで、大臣に、児童虐待撲滅に向けての御決意もお伺いしたいと思います。

○上川国務大臣 子供が最も安らぐ場所であります家庭の中で虐待が行われているということについては、大変深刻であるというふうに受けとめております。特に、そのお子さんの心の中の傷ということについては、成長の過程の中では大変深刻でございまして、そういう意味では、虐待はあってはならないことだというふうに思っております。

 特に、先ほど古屋委員からの御指摘がございます、社会がなかなか複雑な状況にあるということでありまして、地域での家庭の孤立化、あるいは家族関係が大変複雑になっている、そういう意味では、虐待が起こるおそれということについてはこれまで以上に高まっているのではないかと大変厳しく受けとめているところでございます。

 今月から施行されました改正児童虐待防止法等につきましては、先ほど委員からの御指摘のとおり、委員も含めまして党派を超えて熱心に御議論をいただきました。この委員会を中心の議論でございました。そして、その結果としまして、児童の安全確認のための立ち入りの調査、つまり家庭の中に入っていくということについて、従来に比べて保護者、家庭へのアプローチをより強く制度の中に位置づけていただいたところでございます。

 子供を虐待から守るためには、まずは子育て家庭が孤立しないようにしていくということ、そして地域において支援するさまざまな仕組みを整備していくということ、そして虐待が起きた場合には、早期にそれを発見し、また関係の地域の機関とよく連携をとりながら意思疎通を図って適宜適切に対応していくということにつきましては、委員御指摘のとおりでございます。

 この改正法の趣旨にのっとって、各地域の中で行動が的確にとれるように、私といたしましても、関係省庁、地域とよく連携をとりながら、しっかりとフォローしてまいりたいというふうに思っております。

○古屋(範)委員 ありがとうございました。

 私も大臣と共通の考えを持っております。やはり今まで家庭の中で解決をされてきたような問題も、悲しいことではありますけれども、家庭の複雑さ、社会の複雑さの中で、虐待のおそれが高まっているという御見識でございました。悲しいことではございますけれども、やはりそれにかわるといいますか、それを補強するような社会全体、地域全体での仕組みづくり、あるいは国における法制度のさらなる拡充というものがどうしても必要になるんだろうというふうに考えております。

 そこで、このたび機能強化をいたしました児童相談所についてお伺いをしてまいります。

 改正児童虐待防止法では、児童相談所の安全確認義務が盛り込まれ、通告を放置したり、なおざりな対応で済ませたりしないために、ちゅうちょする担当者の背中を押す効果が大いに期待できると考えております。

 このように、虐待から子供を守る法律の整備は確実に進みまして、子供の安全確認の迅速化に向けた環境は整いましたけれども、一方で、児童相談所の現場が追いつかないというのが現状であろうかと思います。私も幾つか児童相談所にお伺いをいたしましたけれども、圧倒的にマンパワーが足りない、たくさんの案件を抱えていらっしゃるというのが現状だと思います。この実務の中心となります全国約二百カ所の児童相談所、質的なレベルアップと、また体制の強化が課題となっております。

 児童虐待防止法が制定をされました平成十二年以降、各自治体では児童福祉司を増員するなど体制強化を図っておりますけれども、実際には、相談件数が急増しておりまして人員不足の状態が続いております。虐待の通報を受けたとき、四十八時間以内に安否の確認をする、児童相談所がこのように素早く動いて子供を救う、そのために職員をふやし、またその職員の専門性というものも高めていかなければならないと思います。

 厚生労働省の調査によりますと、一人当たりの児童福祉司が扱う件数は、欧米では約二十件前後と少ないのですが、日本では百件前後ということでございます。この適正と思われる二十件前後の担当件数になるように、そのためには人員をふやさなければいけない、またより深刻なケースに対応する体制をとるべきと考えております。

 私は、この新たな制度を運用していく上で、児童福祉司のさらなる増員、また福祉専門職員の配置、また異動年数の改善、これもどんどん異動していってしまうという現状もございますし、専門性の蓄積も必要である、職員不足の改善など、質とまた量の両面のマンパワーの充実が必要であると考えております。

 自治体の取り組みを支援し、児童相談所の体制をさらに充実させることが大変重要であるわけですが、これについて、厚労省の取り組みをお伺いいたします。

○村木政府参考人 お答え申し上げます。

 委員から御指摘がありましたように、改正児童虐待防止法におきましては、児童相談所が虐待通告を受けた際の児童の安全確認を義務化していただく、それから児童相談所の職員等による強制的な立ち入り制度の創設など、法律の強化を図っていただきました。こうしたことを迅速かつ適切に対応するためには、それを担う児童相談所、とりわけ先生御指摘の児童福祉司の量、質両面での充実が非常に大事だというふうに思っております。

 平成二十年度、本年度におきましては、まず、地方交付税措置におきまして、児童相談所における児童福祉司の数でございますが、昨年度の標準人口百七十万人当たり三名の増員に引き続きまして、さらに一名の増員をいただいたところでございます。先生がおっしゃるような欧米のレベルというところからいうとまだまだという部分もあろうかと思いますが、大変厳しい財政事情の中で御配慮をいただいて、一歩ずつ増員を図っているところでございます。また、職員の質の向上という面で、児童相談所において指導的立場にある者の研修の追加など研修体制の充実を図っているところでございます。

 こうしたことを通じまして、児童相談所の体制強化への支援をさらに充実していきたいと思っております。また、現場の方々、関係者の方々の御意見をよく聞きながら、これからも施策の充実を考えてまいりたいと思っているところでございます。

○古屋(範)委員 厳しい財政状況の中、大変御努力をされているということはよくわかりますけれども、非常に微々たる増員であると思います。来年度に向けて、私たちもしっかりと、この観点は子供の命を守るというところから、さらに増員に向けて取り組まなければいけないというふうに決意をいたしております。

 次に、住民に身近な市町村の体制強化についてお伺いをしてまいります。

 住民から虐待の通報を受ける機会が多いのは、やはり身近な市町村であると思います。市町村などの機関がかかわりながら死亡するケースがふえているという現状もございます。また、年間三万七千件に上る児童虐待に、児童相談所だけでは対応していくことも難しいのが現実でございます。そこで、住民に身近な市町村の体制強化が重要となってまいります。関係機関がネットワークを組み、的確、迅速に対応することが期待をされているわけでございます。

 私の地元の横須賀市、中核市でありますけれども、児童虐待に関しましては非常に積極的に取り組んでいる市でございます。特に、この四月、平仮名で「はぐくみかん」と書きますけれども、オープンいたしまして、ここには児童相談所機能もございます。また、障害を持ったお子さんの相談、療育相談センター、また子育て支援の総合窓口もございまして、児童手当の支給から保育まですべて子供に関することはここに行けば答えてもらえる、そういう非常にすばらしい施設がスタートしたところでございます。市民からも非常に期待をされている機関でございます。

 十六年改正の際に、市町村の関係機関が連携して、虐待などに対応する要保護児童対策地域協議会、いわゆる子どもを守る地域ネットワークの設置が進められております。これは、市町村が児童相談所、警察、医療機関、学校、教育委員会、民間団体などに参加を呼びかけて設置し、定期的に会議を開いて情報を共有する、要保護児童の早期発見や適切な保護に努めるものでございます。

 厚労省によりますと、この地域協議会、児童虐待防止ネットワークを含めますと、全国で約八五%まで広がっております。しかし、市町村によっては具体的な運営方法がわからないというような声も聞かれます。今後、こうしたネットワークの設置促進とともに、どう機能させるか、コーディネーターの専門性の向上と運営のノウハウをアドバイスするなど、中身の充実が問われております。

 そこで、子どもを守る地域ネットワークの設置促進など市町村レベルの体制強化について、お考えをお伺いします。

○村木政府参考人 お答え申し上げます。

 御指摘のとおり、虐待防止には、住民に身近な市町村の取り組みが非常に大事でございますし、とりわけ学校や警察なども入って、地域の構成メンバーがしっかりとネットワークを組むということは非常に大事で、御指摘の子どもを守る地域ネットワーク、これを全市町村に設置していただくというのは非常に大事なことだというふうに考えております。

 私ども、この設置、運営のノウハウをまとめました市町村向けのマニュアルの作成、配付などを通じまして、できるだけすべての市町村にこのネットワークを設置していただこうということで努力をしております。

 また、十九年の児童福祉法の改正で、ネットワークの設置が市町村の努力義務というふうに法律に位置づけられました。そうしたこともありまして、先生が御指摘をされましたように、大体八五%ほどの市町村で今このネットワークがあるという状況でございます。これをできるだけ早く一〇〇%に近づけるということと、さらに、このネットワークの機能そのものを強化していくということがこれからの課題だろうというふうに思っております。

 そうしたことから、二十年度予算でございますが、ネットワークのコーディネーターやネットワークの構成員の専門性を高めるための事業として、子どもを守る地域ネットワーク機能強化事業というのを創設いたしました。また、児童福祉司の任用資格取得のための研修につきまして、これまでは都道府県職員を対象としておりましたが、これに市町村職員も受講対象にするというような施策も新たに取り組むところでございます。

 また、今の国会に提出をさせていただいておりますが、児童福祉法等の一部を改正する法律案におきまして、ネットワークの調整機関に一定の専門性を持っている者を置く、そういったことを努力義務として法律に規定をしたいということで、法律を提出しているところでございます。

 今後、こうした取り組みを通じまして、国はもとよりでございますが、住民に一番身近な市町村の体制強化をしっかりと応援してまいりたいと考えております。

○古屋(範)委員 では、最後に、虐待防止に大きな役割を果たしますこんにちは赤ちゃん事業について質問してまいります。

 虐待死の約四割がゼロ歳児ということから、昨年度スタートいたしましたこんにちは赤ちゃん事業、これも、私たちも地方議員とともに推進をしてまいりました。この一年間に実施した市町村はまだ六割弱にとどまっているということでございます。児童福祉法改正案が今国会に提出されておりまして、この中で、子育て支援に関する基本的サービスの一環として、このこんにちは赤ちゃん事業が明確に位置づけられることとなりました。一刻も早い法律の成立が望まれるところでございます。

 そこで、法制化されることで、この事業に対して国民の広い理解が得られ、全国で導入が進むことが期待をされているところでございますけれども、こんにちは赤ちゃん事業へのさらなる普及の取り組みにつきまして、厚労省にお伺いいたします。

○村木政府参考人 生まれて間もない赤ちゃん、乳児がいる家庭は、大変親御さんは苦労をされております。特に、核家族化が進む中で、お母さん方が周囲から大変孤立をしているというような指摘もございます。また、先生御指摘になられましたように、虐待による死亡事例の中でゼロ歳児のウエートが非常に高いという状況もございまして、虐待防止の観点からも、産後間もない家庭への支援というのが非常に重要だと考えているところでございます。

 このため、平成十九年度からでございますが、生後四カ月までの乳児がいるすべての家庭を訪問して、子育て支援に関する情報提供等を行い、また、サポートが必要な家庭を発見し、具体的な支援につなげていくという事業、通称こんにちは赤ちゃん事業でございますが、これを開始したところでございます。

 こうした事業、私どもが制度化をする前に、既に先進的な市町村で取り組まれておりまして、そういった事例をしっかり集めて、その事例集を自治体に配付したりということで周知、普及を図ってまいりました。

 先生御指摘になられましたとおり、十九年度の普及割合、まだ六割ということでございます。これを踏まえまして、この事業、非常に大事だということで、ぜひすべての市町村でやっていただきたいということで、児童福祉法等の一部を改正する法律案、今国会に提出をしておりますこの法律案に、乳児家庭全戸訪問事業として法律上位置づけをしまして、市町村にその実施について努力義務を課すということにしたところでございます。

 また、予算面でございますが、本年度の予算におきまして、先ほど御指摘をいただきました子どもを守る地域ネットワークの事業とこのこんにちは赤ちゃん事業を上手に連携を図って実施していただきますと、次世代育成支援対策交付金の加算ポイントの配分があるというような工夫もいたしまして、この事業の普及に努めているところでございます。

 また、自治体の意見も聞きながら、この事業がしっかりと普及をして、また皆さんにも知っていただけるようにさらに努力をしてまいりたいと考えております。

○古屋(範)委員 以上で質問を終わりにいたします。

 ありがとうございました。

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