第171回国会 衆議院 厚生労働委員会-16号

○古屋(範)委員 公明党の古屋範子でございます。

 前回に引き続いての質問になりますけれども、前回、提出者に質問をいたしました。きょうは、提出者ではなく、大臣と政府に対してお伺いをしてまいります。よろしくお願いいたします。

 先週、脳死臓器移植の拡大や適正化を目指す改正四法案の質疑に立たせていただいたところでございますが、移植待機患者やその家族の方々は、この法改正で臓器の提供がふえることを大変に期待していらっしゃいます。その一方で、子供の臓器提供に道を開く改正には慎重論も根強くございまして、臓器移植を支える医療体制自体の不備を指摘する意見も多く出されております。

 臓器移植法の問題は、こうしたさまざまな課題に加えて、個人の人生観、死生観などに深くかかわるものでございまして、私は、社会的合意の得られる範囲で漸進的に進めるべきと考えております。国際的な動向も踏まえて、臓器を提供したいという人々の意思が生かされ、かつ、臓器移植を待ち望む多くの待機患者の皆様の声にこたえつつ、臓器移植に慎重な方々の心情にも配慮をした法改正をしていった方がよいのではないか、そう考えております。

 初めに、臓器移植の現状に関する舛添厚生労働大臣の御認識をお伺いいたします。

○舛添国務大臣 私より年配の方々と臓器移植について話をしていますと、日本の最初の心臓移植の札幌医大の和田教授、もう若い方は御存じないかもしれませんが、まだその記憶が非常に鮮明であります。

 それで、臓器移植法が施行されてから十年たちますが、今、臓器移植に関する医療技術の向上というのは目覚ましいものがある。ところが、本当にその年配の方々は、和田さんの時代のことが念頭にあって、今の水準をよく御存じない。だから、非常に進歩していますよというのがまず一つ。それで、八十一例でしたが、実績も重ねております。

 それから、先般、私も大阪の循環器センターへ参りまして、本当に移植を受けたいと待っておられる方がおられて、立ち上がって、大臣、何とかしてくれませんかと。それでお手紙をいただいたり、待っていて命を落としたんだ、これだけ仲間がいますよと。そういう現状もあります。

 ただ、今委員がおっしゃったように、これは人の生命観にかかわる哲学、倫理の問題でありますから、いろいろな方のいろいろな考え方があってしかるべきだと思います。

 そういう意味で、厚生労働省としてやるべきことは、例えばドナーカード、これをちゃんと整備する、普及する、こういう環境整備、それから、必要なときに必要なものを準備する、こういうことだろうというふうに思います。もちろん、国立病院機構の中で、さらに移植のための設備、施設、こういうことの整備もまた必要だと思いますけれども、国会の御意思が示されたら、直ちにまたその御意思を政策の形で実現できるように全力を挙げてまいりたいと思っております。

○古屋(範)委員 大臣、現場にも足を運ばれたということでございます。率直な御意見とともに、これからの厚生労働行政というものに対する御決意を伺うことができました。どうもありがとうございました。

 その次になりますけれども、日本で臓器移植法が一九九七年に御存じのように施行されまして十一年以上がたつわけですが、これまで臓器提供されたのは八十一例にとどまっているわけでございます。年間にいたしますと十例前後であり、これは、年間七千例以上の臓器提供がある米国などと比べましても、明らかに低い数字であると言わざるを得ません。その結果、国内にいる移植待機患者の大半は希望がかなえられないまま亡くなっているという現状でございます。

 この臓器移植小委員会で、海外で実際に御家族が移植を受けられた、そういう御家族の御意見も伺いましたけれども、費用の点もさることながら、渡航して移植を待ち、また手術をするという、患者のそうした心身の負担、あるいは、御家族にとっては言葉の壁というものもある。それも、非常に難しい専門的な医学用語も理解してコミュニケーションをとらなければいけない。また、日本との文化の差異もあるという、非常に御家族も大きな苦労を背負っていらっしゃるわけでございます。

 現在、臓器移植を待つ患者がどのくらいいるのか、これについてお伺いいたします。

○上田政府参考人 社団法人日本臓器移植ネットワークに登録されております、平成二十一年、ことしですけれども、ことし三月三十一日現在の移植希望者数でございますが、心臓の方が百二十八名、肺が百十一名、肝臓が二百三十九名、腎臓が一万一千九百四十名、膵臓が百六十名、小腸が一名でございます。

 また、角膜につきましては、本年二月二十八日現在でございますが、二千八百十二名の方がお待ちになっているところでございます。

○古屋(範)委員 非常に待っていらっしゃる患者が多い、そういう数字であろうかと思います。

 この移植医療をめぐりまして、最近では、病気の腎移植の問題、また、臓器売買事件が明るみになりました。これらの問題の背景には、こうした臓器移植を希望する患者に対して提供される臓器が圧倒的に少ない、こういう現状があるのではないかというふうに思います。このために、国内では、健康な家族の体にメスを入れて腎臓や肝臓の一部を取り出して移植する、この生体移植が増加をしていて、移植全体における依存度は世界でも突出していると言われております。

 そしてまた、この生体移植は、書面による意思表示を含めた法的な規則がなく、移植後のドナー、レシピエントとも健康状態の確認も十分行われているとは言いがたい。本来、避けるべき医療であるとの指摘もございます。一日千秋の思いで臓器の提供を待たれている多くの患者がいる一方で、臓器移植に対する国民の意識の低さも指摘をされます。

 そこで、我が国の臓器移植が進まないのはどのような理由からとお考えになりますでしょうか。

○上田政府参考人 臓器移植には、脳死下と、それから心停止下があるわけでございますが、脳死下での臓器提供につきましては、これまでも申し述べておりますように、これまで八十一例ございまして、実績は積み重ねられてきておりますけれども、今なお制度への正しい理解が十分でない面があるのではないか。このようなことから、臓器提供件数が限られている一因というふうに思っております。

 また、心停止下が中心になりますが、腎臓及び眼球につきましては、臓器の移植に関する法律附則第四条に基づき、死亡した方の意思が不明な場合においても、遺族が書面により承諾すれば心停止下での臓器提供が可能なわけでございますけれども、臓器移植に関する世論調査、これは平成十八年の十一月、内閣府が行ったものでございますが、七割の方が知らなかったと回答されております。それから、国民や医療従事者が、家族の承諾のみでは心停止下での臓器移植はできないと誤解をされている面もあるのではないか、こういう指摘がございます。

 このように、制度が十分に理解をされていない面もあるというふうに考えておりまして、私どもといたしましては、中学三年生向けのパンフレットを毎年全国のすべての中学校に配付するなど、今後も引き続きあらゆる機会を通じて知識の普及に取り組んでまいりたいと考えているところでございます。

    〔委員長退席、三ッ林委員長代理着席〕

○古屋(範)委員 この国会での法改正の論議が、国民全体にこうした臓器移植というものに対する正しい知識を普及するチャンスになればというふうに思います。

 現行の臓器移植法において、臓器を提供するには、本人の意思表示はあくまで尊重するという枠組みのもとで、あわせて家族の同意も必要としております。

 今回、四つの改正案について議論を進めておりますけれども、どのような改正をするとしても、提供者をふやすためにはドナーカードの普及に力を入れることが大前提だと考えます。そのためには、国民がふだんから脳死移植について考えることができるよう、学校あるいは教育現場、家庭において話し合っていくことも不可欠であると思います。

 さらに、臓器を提供したいという本人の意思が十分に生かされるよう、健康保険証や運転免許証などに臓器提供の意思を記載するようにするなど、さまざまな意思表示の機会の拡大、また啓発活動をさらに続けていかなければいけないと考えております。

 そこで、臓器提供者の意思を明らかにする方法の一つであるいわゆるドナーカード等はどのくらい普及されているのか、その現状についてお伺いします。

○上田政府参考人 臓器提供者の方の意思を明らかにする方法の一つでございます臓器提供意思表示カード、いわゆるドナーカードでございますが、臓器の移植に関する法律が施行されました平成九年から平成二十一年三月末までで、コンビニエンスストアなどへの配置、新しいデザインのカードの作成、テレビなどによる広報などの取り組みを行って、現在約一億二千万枚が配布されているところでございます。

 また、医療保険の被保険者証に臓器提供意思表示欄を設けることを可能としており、一部の保険者においてこれは実施をされているところでございます。

 また、平成十九年三月には、社団法人日本臓器移植ネットワークにおいて、カード所有者の増加を図り、より確実に臓器提供の意思を生かすことを目的として、臓器提供意思登録システムを構築し、運用を開始したところでございます。

○古屋(範)委員 御努力はされているようでございますけれども、さらにこのドナーカードの普及に力を入れていただきたい、このように思います。

 今回の法改正は、人の死における脳死の位置づけ、また、虐待されて脳死となった子供を見分ける体制整備など、詰めるべき論点は多いと思います。今後、いずれは国内での移植拡大を求めるWHOの指針改定も行われることとなり、国内で移植が受けられないから海外で受けるといった実態はやはり変えていかなければいけないと思います。

 しかしながら、医療の現場では、全国的な医師不足の中で、特に脳死患者の発生が多い救急現場での人手不足は非常に深刻であり、提供者の家族への説明、また判定作業に医師が長時間拘束されるなど、現場の負担が大きいために、脳死判定を経て臓器提供につながらない場合もあると伺っております。

 そこで、最後に、臓器移植を推進する観点から、厚生労働省として、今後、救急医療体制の整備も含め、どのように取り組んでいかれるおつもりか、お伺いいたします。

○上田政府参考人 臓器移植法に基づく脳死判定は、原因となる疾患の確実な診断のもと、行い得るすべての適切な治療を行った場合でも回復の可能性がないと認められる方に対して行われるべきものと考えております。

 このため、移植医療を進めるに当たりましては、地域における救急医療体制の整備を初め、脳死や臓器移植に関する国民全体の理解を深めるとともに、臓器提供のための体制を整備していくことが重要であると考えているところでございます。

 救急医療に関しましては、平成二十一年度予算におきまして、休日、夜間の救急医療を担う医師の手当に対する支援の創設、重篤な救急患者を二十四時間体制で受け入れる救命救急センターに対する支援の拡充など、救急医療対策予算を大幅に拡充し、救急医療体制の充実を図っているところでございます。

 また、臓器移植に関する普及啓発につきましては、日本臓器移植ネットワークと連携しながら、政府広報などを活用した普及啓発、各種パンフレットの作成配布、臓器移植コーディネーターに対する研修などのあっせん体制の整備、医療関係者への普及啓発などに取り組んでいるところでございます。

 今後とも、地方公共団体、日本臓器移植ネットワークなど関係機関等の協力を得て、あらゆる機会を通じた普及啓発に努めるとともに、救急医療や移植医療が適切に実施されるよう、専門の方々を初め関係する方々の御意見を伺いながら取り組んでまいりたいと考えているところでございます。

○古屋(範)委員 以上で質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

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