第173回国会 衆議院 本会議-4号

○古屋範子君 公明党の古屋範子です。

 私は、公明党を代表して、ただいま議題となりました新型インフルエンザ予防接種による健康被害の救済等に関する特別措置法案について、厚生労働大臣に質問いたします。(拍手)

 新型インフルエンザの全国の推定患者数が百五十三万人と、本格的な流行が始まっております。

 新型インフルエンザは、弱毒性ではありますが、急速な蔓延により世界的に人類の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある、感染力が極めて強いものとされております。これまでに、小中学校などで休校や学級閉鎖が相次ぐなど、その影響は多方面に及んでおります。

 また、昨日、三人目の新型インフルエンザワクチンの接種後の死亡事例が報告をされております。厚生労働省は、速やかに死亡事例と接種との因果関係を調査し、ワクチン接種の安全性の確保に努めていただきたいと思います。

 インフルエンザ対策といえば、昨年二月から約半年をかけまして、自民、公明のプロジェクトチームで、週一回以上のペースで、全府省を巻き込み、経済界を初め幅広く意見聴取をするなど、総合的な鳥インフルエンザ対策の政策を立案してまいりました。私が先月WHOを訪問し、グローバルインフルエンザプログラム、メディカルオフィサーの進藤奈邦子さんとの会見をした際にも、そうした備えが今回のH1N1新型インフルエンザ対策に大変に役立ったことに同意をされました。

 季節性インフルエンザの流行も懸念される中で、どう感染の爆発をおくらせ、分散していくかが勝負です。この冬の流行を乗り越えるためには、さらなる新型インフルエンザの流行拡大を想定した万全な対策が必要であります。

 対策強化が急がれる中、新型インフルエンザワクチンの接種回数をめぐる議論は迷走しました。一回接種なのか二回接種なのか、二転三転をしたとの印象のある国産ワクチンの接種方針が、十一日、中高生に相当する年齢の方は現時点では二回、それよりも上の年齢の方は原則一回と示されました。大臣は、その後の会見で、間違いのない判断を重視したと釈明されたとのことですが、結果的に、一回接種する、この判断は約三週間おくれたこととなります。

 さらに、国内の入院患者の八割以上を十四歳以下が占め、その三分の二は持病のない状態などから、小児科医より、健康な子供への接種を前倒しすべきだとの批判が相次ぐ中、厚生労働省より小児の接種前倒しが要請されるなど、混乱が続きました。各地の医療現場や自治体では戸惑いが広がり、さらに接種回数や時期などを含めた問い合わせが数多く寄せられ、混乱しているとの報道もございました。

 国民の大半は、予防接種の方針が二転三転することに対しましては免疫ができておりません。方針が定まらなければ、現場は予定が立てられず、混乱するばかりです。不確定な要素があったとしても、大人は一回接種には一定の根拠がありました。十一日の意見交換会では、一回接種に批判的だった専門家からも二回接種を主張する声は出なかったと聞いております。

 この混乱ぶりは、政治家主導を意識する余りに起こった混乱ではないのでしょうか。国民をこのように不安に陥れた最終責任は、厚生労働行政の最高責任者である長妻大臣にあります。長妻大臣に、この間の事情の明確な説明を求めたいと思います。

 また、今回の予防接種の費用負担については、実費を徴収することとされており、一回接種の場合は三千六百円となっております。二回接種の場合は六千百五十円となり、決して軽い負担ではありません。

 所得の少ない世帯については負担軽減措置をとるとしておりますが、その費用は国が二分の一、都道府県が四分の一、市町村が四分の一負担することとなっており、特別地方交付税による地方財政措置がなされるものと認識をいたしております。

 しかしながら、この交付税は使途が限定されていないため、自治体によって負担の格差が生ずる可能性もあり、また、私は、そもそも国の事業として行う予防接種に地方の負担を求めることは妥当ではないと考えます。

 欧米主要国でも、新型インフルエンザのワクチンは原則無料と聞いております。国民を守るという公衆衛生上の根本から考えれば、ワクチン接種は原則無料化が筋であります。妊婦や基礎疾患を有する人、小児など優先接種の対象者などが経済的な理由で接種をためらうことのないよう、接種費用を無料にするなど、公的補助の範囲を広げるべきであります。大臣のお考えを伺います。

 今回のインフルエンザ予防接種は、国の事業としての予防接種が実施されることとなっており、国産・輸入ワクチンの購入や優先接種対象者が定められております。この優先接種対象者には、小中高生、妊婦、基礎疾患を有する者のほか、医療従事者等が含まれていることなどから、予防接種による健康被害に対する給付の額については、現行を上回る必要かつ十分な給付水準にすべきと考えます。大臣の御見解を伺います。

 次に、いわゆる予防接種法の抜本的な改正について伺います。

 現在、日本の予防接種の常識は世界の非常識と言われております。WHOは、日本で定期接種しているはしかや風疹、ポリオ等のワクチン以外にも、B型肝炎ワクチン、Hibワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、ロタウイルスワクチンを定期接種するよう勧告をしております。日本もワクチン先進国を目指し、今まさに予防接種の体制強化が求められております。

 そこで、今、大変に注目を集めているのが、先月十六日に承認された子宮頸がんワクチンと細菌性髄膜炎を防ぐ小児用肺炎球菌ワクチン、そして昨年承認されたHibワクチンであります。

 特に、細菌性髄膜炎は、生後三カ月から五歳ごろまでの発症が多いと言われ、年間約千人が発症し、その五%が死亡、二五%が脳の後遺症に苦しんでおり、その原因の約六割がHib、続いて約二割が肺炎球菌であります。世界百カ国以上で使われ、効果が認められているHibワクチンは、六〇%以上の接種率となるとHib感染症が激減する集団免疫ができます。これは肺炎球菌ワクチンも同じであります。

 米国では、子供に定期接種で接種をすると、どの年齢の人でも肺炎球菌感染が減り、とりわけ高齢者は六五%減ったというデータもあり、これらの接種率の向上が必要です。そのために、既に九十カ国以上で定期接種が行われているHibワクチン、また、三十八カ国以上で定期接種が実施されている肺炎球菌ワクチン等についても、日本でも一日も早い定期接種化が必要と考えます。

 ワクチンで防げる病気から国民の生命と健康を守ることは、最優先の政治課題であります。今後、鳥インフルエンザ等、別の新型インフルエンザが発生し、救済措置や損失補償等が必要になった場合においては、今回と同様に新たな立法措置を行うか、または予防接種法を初めとした関係法令の抜本的な改正を行う必要があります。

 そうであるならば、新型インフルエンザの重症化対策としても有効なHibワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン等の定期接種化も含め、予防接種法の抜本的見直しに一刻も早く着手すべきと考えます。長妻大臣の御見解を伺います。

 最後に、日本の予防接種体制の根本的な見直しについて伺います。

 日本では予防接種行政の担当部局が細分化をされ、二年ごとに人が入れかわるなど、責任体制が不明確であることが指摘をされております。米国同様に長期戦略をつくるシステムづくりが必要であると思います。

 米国では、ACIPという、長期戦略を立て実行する委員会があり、ここで決定される指針は国の予防接種政策に反映されるという大変重要な役割を担っております。また、英国では、厚生省にワクチン部があり、予防接種施策の決定や質のよいワクチン製剤の選択、さらにワクチン代はすべて国が負担するなど、ワクチンの重要性を深く認識し、医療費のスリム化をうまく行っています。

 このように、海外では、新規ワクチンの接種年齢など、簡素な組織で意思決定を行うシステムが構築されており、限られた財源を効率的に配分するための医療経済評価が利用されております。

 一方、日本では、総合的な施策を議論する場が確保されておりません。

 特に、今回の新型インフルエンザ予防接種のように国の行う事業と位置づけるのであれば、ワクチンの安定供給、研究調査体制など、責任体制を明確にした総合的な施策を議論する場が必要であると考えます。

 そこで、予防接種体制の根本的な見直しを行い、新しいワクチンの導入や調査、ワクチンの安定供給、普及のための方策など、総合的な施策をつくることのできる予防接種体制を整備すべきであります。そして、将来的には、ワクチン政策全般を担う部局、日本版ACIPを創設すべきと考えます。

 今回の新型インフルエンザの流行が、日本のワクチン行政のあり方を大きく見直し、国民の安心、安全にこたえるものに大きく前進する契機となりますよう、長妻大臣の前向きな御答弁を強く求め、私の質問を終わります。

 ありがとうございました。(拍手)

    〔国務大臣長妻昭君登壇〕

○国務大臣(長妻昭君) 質問をいただきまして、ありがとうございます。

 まず、新型インフルエンザワクチンの接種回数の見直しや、お子さんへの接種時期の前倒しに関するお尋ねがございました。

 新型インフルエンザワクチンの接種回数につきましては、十月二十日、十一月十一日と二回の見直しを行いましたが、いずれも、その時点までに得られた科学的知見に基づいて、専門家の意見も伺いながら、行政として必要な判断を順次行ったものでございます。

 もう少し詳しく申し上げますと、私どもといたしましては、臨床試験をしております。例えば、成人の方や中高生の方々にこの新型インフルエンザワクチンを一回接種、二回接種してどれだけ効果が得られるのかという臨床試験をしているところでございまして、なぜ十一月十一日に成人の方を一回接種にしたかと申しますと、ちょうど十一月十一日に成人の方の二回目接種の臨床試験の結果が出た、それを受けて、即日私どもは適正な判断を申し上げたところでございまして、私どもとしては、間違いがあってはなりませんので、慎重に判断をしているところでございますので、ぜひ御理解をいただきたいと思います。

 今後とも、国内のデータや海外の知見などを収集し、適切な時期に行政として必要な判断をしてまいります。

 また、お尋ねの、お子さんへの接種時期の前倒しについては、基礎疾患がないお子さんでも重症化する事例が多く見られるようになってきたことなどを踏まえて、各都道府県に対して、接種時期の前倒しについてできる限りの検討をお願いしたところでございます。

 厚生労働省といたしましては、こうした見直しの趣旨や内容について、各都道府県に迅速に情報提供をするとともに、実情をきめ細かに把握して都道府県に助言等を行うことにより、できる限り円滑に実施されるよう努めてまいります。

 次に、ワクチンの接種費用について、無料化するなど公的補助の範囲を広げるべきではないかとのお尋ねがありました。

 今回のワクチン接種は、個人の重症化防止を目的として実施するものであり、その費用負担は、予防接種法の定期接種に準じて実費を徴収することとしております。これは、季節性インフルエンザと同様の仕組みでございます。

 同時に、低所得の方が接種を受けることができるよう、市町村民税非課税世帯を念頭に、市町村が負担軽減できる措置を講じ、国がその費用の二分の一を補助することとしております。

 次に、新型インフルエンザの予防接種による健康被害に対する給付の額についてお尋ねがございました。

 今回の新型インフルエンザの予防接種は、季節性インフルエンザと同様に、あくまでも希望する方に接種するものであり、接種を受ける努力義務が課される、はしか、ポリオなどの一類疾病の予防接種とは異なると考えております。

 このため、新型インフルエンザ予防接種により健康被害が生じた場合の救済措置については、接種を受ける努力義務が課されない予防接種法上の二類疾病の定期接種と同様の内容とすることが適当と考えました。

 なお、給付水準のあり方については、今後、予防接種法の給付のあり方を含め、次期通常国会への法案提出も視野に入れつつ、速やかに検討を進めてまいります。

 次に、予防接種法の見直しについてのお尋ねがございました。

 新型インフルエンザに関する予防接種のあり方については、法案附則第六条に基づき、次期通常国会への法案提出も視野に入れつつ、速やかに検討を進めてまいります。

 一方、新たなワクチンを定期の予防接種の対象に位置づけること、この御提案につきましては、引き続き検討を要する重要な課題ではありますが、今後、有効性、安全性などに関する科学的な知見等に基づき十分に議論していくことが必要と考えております。

 次に、ワクチン行政のあり方の見直しについてのお尋ねがございました。

 ワクチン行政につきましては、新型ワクチンの開発促進等産業政策の側面、医薬品としての承認等の規制の側面、感染症の予防対策の側面等々の業務について、各担当部署が連携をとりながら推進をしているところでございます。

 一方、担当部署が多岐にわたることから、おっしゃるように縦割り行政との御指摘も確かにいただいており、我が国の円滑なワクチン施策に支障を及ぼすとの御意見もあります。

 今回の新型インフルエンザの発生等を踏まえ、ワクチン行政のあり方について総合的に検討することが必要と考えておりますので、今後とも御指導を賜りますようお願いを申し上げます。

 以上です。(拍手)

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