第174回国会 衆議院 厚生労働委員会 6号

○古屋(範)委員 公明党の古屋範子でございます。

 きょうは、参考人の皆様、朝早くから国会においでいただき、貴重な御意見をいただきましたことに、心から御礼を申し上げたいというふうに思います。

 まず、渥美参考人からお伺いをしてまいりたいと思います。

 私たち、四年前に、公明党で少子社会トータルプランというものを一年半かけて作成いたしました。それは、一つには、生活を犠牲にしない働き方、ワーク・ライフ・バランスの確立、そしてもう一つの柱が、子育てが過重に負担とならない、そうした子育て支援、この二つを柱としてトータルプランを作成いたしました。そのときに、先生からも貴重な御助言をちょうだいいたしました。

 先ほどの先生の意見陳述の中でも、きめ細やかでシームレス、切れ目のない子育て支援施策の提供、このようなお話がございました。

 また、ある調査によりますと、例えば現金給付、私も現金給付というものは重要でありますし、公明党としても今まで児童手当を長い間かけて実現してきた、そうした歴史もございます。しかし、その現金給付があっても、一定程度の人々は、それでも自分たちは子供は持たない、あるいは子供が持てないという方々がいらっしゃいます。それは、やはり仕事と生活の調和が図られていないということが大きな原因だと思うんです。

 先生、こうした現金給付とともに、ワーク・ライフ・バランスをどう我が国でもっと推進していかなければいけないか、この点について御意見があればいただきたいと思います。

○渥美参考人 私は、ずっとワーク・ライフ・バランス、ダイバーシティーを研究して、今、実際に企業に出向いて職場改善のお手伝いをしています。そういう中で、現政権はワーク・ライフ・バランスに余り熱心でないという印象を持って、とても残念です。

 今回、事業仕分けに関しては賛否両論あるところですが、仕事と生活の調和推進事業、子ども手当の大々たる予算配分に比べればわずか十億円、そういう事業が見送られました。

 そもそもこの事業は、企業がワーク・ライフ・バランスというのに取り組もうとしたら、なかなか何をやっていいのかわからない。そもそも、ワーク・ライフ・バランス施策というのはかなり多岐にわたります。事業規模、従業員規模、業種、いろいろな要素によって最適なバランスというのは変わってきます。そういうものをアドバイスするコンサルタントを養成しようということを厚生労働省が始めようとしていた。それに関して、外郭団体、全基連が関連しているということで、そこはちょっと、ためにする事業じゃないかという御批判があったかと思います。

 ただ、そもそも企業は今かなり二極化していて、ワーク・ライフ・バランスに取り組んでいる先進企業というのは、こういうことに取り組まないと組織としての持続可能性がない、やはり、労働力人口が減っていく中で、女性も外国人も障害者も、いろいろな人たちが働きやすい職場環境をつくっていこう、そういう知恵をいっぱい持っています。そういうものをいろいろ吸い上げて、これからやろうとしているほかの企業に広げていく意味では、このコンサルタント養成講座は極めて有益な事業だと私はずっと考えておりました。今回は予算計上見送りですから、今後復活の可能性もあるかと思いますので、ぜひそういったときにはそもそもの事業の意義というのを考えていただきたいと思います。

 それで、今、子ども手当の議論ですので、私自身も三歳とゼロ歳の息子を養育している者として、経済的支援がありがたくないかといえばありがたいんですが、ただ、私は、給付されたら本当は受け取りたくはないです。それは、要らないということではなくて、そのお金の使い方に関して自分の意思を表明したいんですね。

 仮にフランスのような全国家族手当金庫みたいなものがあった場合に、そこに、私のような思いを持っている人たちは、それを財政システムの元締めのところに返上するから、こういうことに使ってほしい、例えば子供の貧困のためにもっとこういうふうに予算配分してほしい、そういう意思表示をするような場が今ないですね。

 NPOは、この間の自民党政権のときにも、幾つかのNPOがそういう受け皿になろうとして手を挙げていました。今回も、恐らくNPOに寄附をするという形でお金は回ります。ただ、それを個人の一つ一つの選択としてではなくて、志を持った人たちが、子育て支援に対してもっと国は力を入れてほしい、こういう部分に予算配分してほしい、そういう意思表示をする場という形での見える化。今は一方的に国から個人へという給付になっていますけれども、個人の意思表示を国が吸い上げる場というのもつくっていただきたい。

 そういうものがないと、やはり子ども手当の方がワーク・ライフ・バランス施策よりは単純にやりやすいので、ワーク・ライフ・バランス施策というのは、かなり知恵を絞らないと、本当の意味で有効な施策というのは打ち出せません。今、それを企業は実際に、しかも、私が申し上げている六百五十社というのは、半分以上が地方の中小企業です。本当に、お金もない、経済的環境も恵まれない中にあって一生懸命やっている企業がありますから、そういう知恵を吸い上げる場をぜひつくっていただきたいと思っています。

○古屋(範)委員 ありがとうございました。

 経済状況が厳しく、ワーク・ライフ・バランスどころじゃない、経営だけでも大変だという時代なのかもしれませんが、逆に、こういうときこそ価値観を転換できる、働き方を変えていけるチャンスととらえて、ワーク・ライフ・バランスをさらに推進していかなければいけない、そのことがよくわかりました。

 先ほどの委員からも質問があった点なんですが、渥美参考人に、バウチャー給付についてさらにお伺いしてまいります。

 私たちも、四年前に発表しました少子社会トータルプランの議論の過程で、数十回会議を開いておりますが、このバウチャー制度についても議論があった点です。私自身は、これを導入すべきだと以前から考えております。また、どちらかというと女性議員の側はこれに非常に賛成だったんですが、実現する過程で非常に多くの課題があるという党内議論もございました。

 しかし、先生は、そうした課題は乗り越えられるというふうにお考えだと思うんですが、いかがでしょうか。

○渥美参考人 バウチャーに関しては、本当に、保育に限らず、教育バウチャーでもかなり突っ込んだ議論が今までされています。

 バウチャーのデメリットもたくさんあると思います。ただ、やはりメリットはかなり大きくて、日本はまだ一回もバウチャーでやったことがありませんので、しかも、日本ほどITインフラが整っていて、いわゆる券が金券みたいな形で市場に出るなんということはあり得ませんから、イギリスにしても、日本以上にITインフラがおくれている企業であっても、保育に関してはかなりバウチャーで、利便性の高い制度がつくれています。

 私は今、自分の子供の待機児童で本当に困っています。それは、そもそも預け場所がないという単純な問題ではなくて、わざわざ何回も何回も足を運ばないと進んでいかないですね。

 こんなふうにITインフラが整っている国で、そんなふうに保育に関して、現地まで行かないとというのは、本当に利用者の利便性というのを全く無視した、本当に親御さんのことを考えて、もっといろいろ利便性を高める仕組みというのが考えられる、バウチャーというのはそういう議論の一つのきっかけにもなり得る。

 やはり、今の日本の保育システムというのは、供給サイドで組まれていた経緯があったために、需要者サイドのニーズというのは基本的には無視されてきた。そこのひずみがいろいろなところであらわれていると思いますので、利用者の意思表示という形で、バウチャーは極めて有効な施策だと思っています。

○古屋(範)委員 ありがとうございました。

 こうした巨額の財源を投入するのであれば、やはり、子供に使われる、こうした仕組みづくりへの議論がさらに深まっていく必要がある、このように感じました。ありがとうございました。

 次に、高橋参考人にお伺いいたします。

 公明党の新・介護公明ビジョン作成の過程におきましては、高橋先生からもさまざま貴重な御示唆をちょうだいいたしました。ありがとうございました。そのときも、高齢者対策、介護問題の中でも住宅政策の重要性ということを強調されていらっしゃいました。

 先ほども質問が既にあったんですが、先生のこの「代替案の提示」という中でも、現在の日本では子ども手当よりも住宅手当が優先されるべき、このようにおっしゃっています。

 こうした対象を借家世帯、ローン返済困窮世帯等を対象とされていますが、やはり、高齢者になりますとスペースもある程度少なくてよいという考え方もあろうかと思いますし、また、子供というのは日々成長していきます。本当に、あっという間に成長していく。その短い期間にどう支援をしていくか、環境を整えてあげられるか、これが非常に重要でありまして、この対象の中でも、やはり子育て中の生活不安定子育て世帯、ここに優先されるべきではないかと思うんですが、いかがでしょうか。

○高橋参考人 福祉政策にはターゲティングという考え方が、低所得世帯に限定するというのもそれですけれども、日本ではクロヨン、トーゴーサンの問題がありますので、必ずしも低所得という概念と実際の生活実態がつながらないという問題があって、なかなか難しいんですが、そういうことを含めて、住宅手当、これは給付機構をつくるのがとても大変なんですが、住宅手当をつくると割とターゲティングがスムーズにいくんですよね、とりわけ生活不安定を。

 ですから、アメリカでさえと言っては失礼ですが、ローン返済世帯にも住宅手当が出るような仕掛けが、アメリカでさえ連邦制度としてありますし、そういうことを含めて、社会的消費と階層消費、住宅というのは今まで、お金持ちはいい住まいに住むのではなくて、ヨーロッパ的にいえば、ベースを保障する。そこに、もし、日本ではまだ住宅の現物給付がなかなかできないので、それを補足する住宅手当という立体的な政策の執行が必要。そうすると、実は子供の支援にもなるわけですよね。一番不安定層は住宅の出費が物すごくつらいので、二万六千円をもらうよりは住宅手当を有効に入れた方が、対象も限られますから。

 ただし、これは地域性があります。そういう意味で、私は、もっと地方と相談、同じ二万六千円でも、多分、松阪の二万六千円と沖永良部の二万六千円と東京の二万六千円は全く違いますから、そういうことを含めた調整は、地域主権を元締めする方が先ほど言ったように、松阪市長さん、山中市長さんの意見をちゃんとまじめに聞いてくださいということですよね。そういうふうに、全国市長会もございますし、知事会もございますので、そういうことをやらずに上から降ってくる政策はよくないということを何回も申し上げます。

○古屋(範)委員 ありがとうございました。

 そうした地域性も含めた上で、住宅政策の重要性、確かに、子供を育てる上では、生活、また教育、住宅が基本であろう、このように思います。

 続けて、高橋参考人にもう一問お伺いいたします。

 この中で、財源の壁は厚いと。資源は限られていると先ほどもおっしゃいました。このような施策は財源対策とセットで超党派的に実施すべきだ、このように結論づけられています。

 政権交代が起きる、その中で当然政策というものは大きな転換をするわけなんですが、年金も含めまして、こうした非常に巨額の財源を要するもの、あるいは国民の生活のベースとなるもの、そういうものが政権交代とともに、ことしあるいは三年後、くるくると変わってくる、これは非常に国民にとって不幸である、このように思います。

 ですので、社会保障に関しましては、年金等も含め、こうした子育て支援施策も含めて、与野党含めた超党派的な協議機関を設け、一定の方向性というものを持たなければいけないのではないか、このように思いますけれども、いかがでしょうか。

○高橋参考人 全くおっしゃるとおりでございまして、そのことをきょうずっと申し上げた。

 要するに、この間も申し上げました、百年後に民主党があるか、自民党があるか、公明党さんがあるか、共産党さんがあるか、わからないです。だけれども、今の政策は確実に二十年、三十年、四十年を拘束するわけですから、やはりコンセンサスは必要です。

 実は、イギリスの話は、そういうコンサルテーションペーパーをつくります。さまざまな意見を聞いて、どういうふうにやれるかということを政治主導で決断する。これは、ビバリッジ・レポートがその典型です。政権交代があっても安定的にやって、そこで揺らぎはあります、マニフェストはそこですが、しかし大筋は変わらないようにするというのが、これはイギリスの政党政治の経験なんです。そのことまでは、どうも研究されなかったのではないかと想像しております。

○古屋(範)委員 やはり選挙になりますと、普通のことを言っているよりは、過激な、ドラスチックなことを言った方が選挙民から支持を得られる、こういう方向に走りやすい、先生のおっしゃるとおりだというふうに思います。私も、こうした重要な政策については党派を超えて議論が必要だ、このように考えております。

 それから次に、山中参考人にお伺いいたします。

 先ほど資料を提供いただきましたこの図に、松阪市における現在の児童手当の割合プラス子ども手当の構図をお示しいただきました。

 この児童手当、一九七一年から、公明党が地方において設立し、長い期間かけて徐々に拡充をし、また、国民的なコンセンサスも、地方とのコンセンサスも得つつ、今日まで拡充をしてまいりました。ちょうど松阪市の場合も、国、三重県、松阪市がほぼ同額の負担になっておりまして、事業主がそこの六割程度というバランスになっておりまして、非常に国全体で子育てを支えるというような、そういうパターンになっているかと思います。

 そこで、今回の子ども手当につきまして、先ほどもございましたように、地方の意見、これがどこまで吸い上げられ、反映をしたのか。地方の実情によっても、必要なサービスは大きく異なっていると思います。ですので、その議論の形成過程、また今後の議論について、地方の意見をどんなふうに反映させていくか、御意見があればお伺いいたします。

○山中参考人 先ほどの高橋先生の議論の中でもございましたけれども、本当に、スウェーデンなどにおいては、年金制度を変えていくときには超党派で議論が行われて、年金制度が大きく変わってまいりました。この子ども手当の問題に関しても、本当にこれは政争の具にする問題ではなくて、国も地方も、そして党派も一体となって、実際に子供さんの環境そのものに大きく影響が出る、または未来の国の財政状況に大きくインパクトが出る問題でございますので、本当に基礎的自治体の声もしっかりと聞いていただきたい。

 ただ、基礎的自治体が子ども手当に、皆さんはもう水面下の潜在的な意識では一〇〇%反対であるにもかかわらず、表立って私のようになかなか言えないのは、それを言ってしまうと、直接的に分配するのは地方の責任ですので、市民や、それこそ選挙を考えてしまったりとか、市民の声が直接響いてきますので、本当にそれが言えなくなってしまう。逆に、国会議員の皆様方も、一度二万六千円でつくってしまうと、その後、本当に財政が厳しいから、もっとほかに事情が、必要だからといって、変えられなくなってしまう。

 だからこそ、本当にこの一年間の中で、党派を超えて、そして地方の声も、それもしっかりと物を言っていただける首長さんの声をしっかりと聞いていただく中で、県もやはり中間自治体ですので、ぜひ基礎的自治体の声をしっかりと今後聞いていただく中で制度設計を、民主党さん、自民党さん、公明党さん、共産党さん、みんなの党さん、きょう来ていただいておりますけれども、本当に皆さんが集まって真剣になって考えていただきたい、これだけお願いさせていただきます。

○古屋(範)委員 市町村の声をどう反映させていくか、その重要性がわかりました。ありがとうございました。

 次に、阿部参考人にお伺いいたします。

 阿部先生、党の方にも来て、講演をしていただきました。私も著書も読ませていただきましたけれども、やはり子供の貧困率の高さ、そして所得再分配後のさらに子供の貧困率が高まるという逆転現象、これは是正をしていかなければいけない、このように考えております。

 そこで、子ども手当のみならず、所得再分配機能の強化ということで、税制と、それから医療、年金等の保険料の問題、そしてさらにいえば若年層の雇用対策、こうしたものが総合的に必要かと思うのですが、この辺はいかがでしょうか。

○阿部参考人 おっしゃるとおりだと思います。税と社会保険料と働き方の問題ということで、三つどもえで考えていかなければいけないのかと思います。

 税に関しても、日本は累進性が非常に低い方の国、OECD諸国の中では低い方の国ですし、社会保険料に関してはかなり逆進的な部分が高いということで、先ほどおっしゃった子供の貧困率の逆転現象のところは、社会保険料が低所得層に非常に厳しいというところから出てくるかと思います。

 この点については、免除制度というのがございまして、その拡充というのを政府の方も図ってきたかと思いますけれども、それでもうまく機能していない部分というのは、やはり、国民健康保険の人数割りのところで、例えば子供が多くある世帯には非常に大きな負担になっている点ですとか。

 そうですね、先ほどからちょっと地方分権のお話を聞いていて思ったんですけれども、このように、今、地方ごとに決められているようなものもある中で、でも、やはり最低限これだけを確保しなきゃいけないよというのがあるかと思います。その中では、社会保険料の構成と、低所得者に対してどういうふうにしていくべきかという負担のあり方については、国の方からきちんと決めていただいて、その逆転現象が起こることがないようにというふうにしていただければと思います。

○古屋(範)委員 皆様の貴重な御意見、参考にし、これからも議論を深めてまいりたいと思います。

 ありがとうございました。

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