第198回国会 衆議院 科学技術・イノベーション推進特別委員会-4号

○古屋(範)委員 公明党の古屋範子でございます。

 五月二十日、本委員会におきまして、京都大学高等研究院を視察をさせていただきました。ノーベル生理学・医学賞を受賞された本庶佑特別教授から日本の生命科学の将来について私たちもお話を伺うという貴重な機会をいただきました。感謝を申し上げたいと思います。

 特に、生命科学分野の若手研究者には三重苦があると。私もこの点、意見交換の場でも質問をさせていただきました。三十代で独立して好きな研究ができない。また、科学研究費助成事業の採択率を維持するため、金額が少額に細切れになっている。また、ポストが減少している。

 中でも、特に科研費の分配が大きい問題だと指摘をされました。現在一律で決められている配分方法を分野によって異なる方針で決めるべきだ、金額も、細切れではなくて、一つのプロジェクトで遂行できる規模が必要であるという御意見をいただきました。この点につきまして、非常に重要な指摘だと思っております。どのような対応がとれるのか。

 また、四月の二十三日、柴山文部科学大臣が、日本の研究力向上に向けた改革プラン、研究力向上改革二〇一九を発表していらっしゃいます。これに、若手の研究者が一定期間安定した身分で研究に取り組める環境を整えることということが含まれております。この内容と実効性についてお伺いいたします。

 内閣府、文科省、両省に簡潔な答弁を求めたいと思います。

○増子政府参考人 お答え申し上げます。

 科研費についての御指摘がございましたので、まず文科省からお答え申し上げます。

 科研費につきましては、人文学、社会科学から自然科学までの全ての分野にわたりまして、研究者の自由な発想に基づいて行われる基礎から応用までのあらゆる学術研究を支援する競争的資金でございまして、一課題当たり五百万円以下の小規模の研究種目から一課題当たり五億円以下の大規模の種目まで、さまざまな研究種目を設定し、研究者が行う研究内容あるいは規模に応じて応募することが可能となっているものでございます。

 研究者から研究種目の上限額の範囲内で応募がなされ、審査を行っているところでございますが、学術研究の多様性を支え、また、裾野を広げるため、小規模の研究種目についてはより多くの研究課題を採択する一方、大規模の研究種目や挑戦的な研究種目についてはより厳選して採択しているというような現状でございます。

 文科省といたしましては、先生御指摘いただきました若手研究者、この対応ということで、若手研究者への支援を重点的に強化するため、二〇一八年度の第二次補正予算におきまして五十億円、また、二〇一九年度の予算におきましても対前年度当初から八十六億円増という二千三百七十二億円を計上いたしまして、一課題当たり五百万円以下の若手研究に係る大幅な増額を行ったということでございます。

 このような中、より多くの研究資金を必要とする若手研究者への支援をより充実させるためには、より大型の研究種目への応募を促進することが重要でございまして、現在、そのための方策を検討しているということでございます。

 文科省といたしましては、今後とも、多様な研究を支援すべく、科研費制度全体の充実を図ってまいりたいというふうに考えているところでございます。

○渡辺(そ)政府参考人 お答えいたします。

 先生御指摘の、若手研究者の安定した研究継続の環境整備でございますが、すぐれた若手研究者が安定かつ自立的な研究環境を得て活躍していくことは、我が国の研究力向上の観点からも大変重要であると考えております。

 このため、文部科学省といたしましては、これまでの卓越研究員事業や国立大学におけます人事給与マネジメント改革の推進等の取組に加えまして、先般策定いたしました研究力向上改革二〇一九におきまして、プロジェクト雇用における若手研究者の任期の長期化、これは五年程度以上を想定しておりますが、これに取り組む方向性を示したところでございます。

 具体的には、文科省の公募型研究資金における公募要領におきまして、若手研究者の一定期間以上の任期の確保を要請する記載を盛り込むことを検討しております。さらに、国立大学の人事給与マネジメント改革のガイドラインにおきましても、若手研究者の育成と雇用安定の観点で同趣旨の取組を促しております。

 今後は、若手研究者の雇用状況に関する調査等によりまして進捗を把握しつつ、若手研究者の安定と自立の確保に向けた実効性のある取組の充実に努めてまいります。

○赤石政府参考人 お答えいたします。

 今まで、若手研究者、それから研究力の向上に向けてはさまざまな努力をしてきたのですが、本庶先生の御指摘されましたとおり、研究力の低下に大きな懸念があるところは否めません。

 したがいまして、先月のCSTI本会議においては、安倍総理の指示により、我が国の研究力を抜本的に強化するために、政府を挙げて、研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ、これを今年内を目途に策定することといたしましたので、政府全体としてこの問題にしっかり取り組んでまいりたい、そのように思っております。

○古屋(範)委員 本庶先生からも、私は必ずしもパーマネントポジションでなくてもいいと思っている、そのかわり、例えば五年から七年の契約で好きな研究をやってみる、こういうことが重要だというお答えをいただきました。

 文科省の、若手研究者は原則五年以上という任期に延ばしていくという、これは大きな意義があると思っております。ぜひ着実な実施をお願いしたいと思います。

 本庶先生は、皆様御存じのように、画期的ながんの免疫治療薬、免疫チェックポイント阻害薬の開発に大きく貢献をされたわけであります。こうしたがん治療の進歩は目覚ましいものがございます。

 先週、五月二十九日に開かれました中医協で、がん患者の遺伝情報から最適な治療薬を選ぶがんゲノム医療への保険適用を初めて決定をいたしました。

 しかし、不十分な診療体制また差別への懸念など、課題も多いと思っております。遺伝性疾患の患者や遺伝的リスクのある未発症者が雇用、保険などの分野で不利益をこうむらないような法規制が必要かと思います。こうした全国どこでもゲノム医療を受けられる体制整備とあわせまして、分析した遺伝情報によって差別が生じないような取組が必要だと思っております。この点について御見解を伺いたいと思います。

 また、あわせて、パネル検査ではなくて、全ゲノム解析をすることでがんと関連する新たな変異が見つかる可能性もあり、将来的な治療や創薬につなげることができる全ゲノム解析を用いた研究開発をぜひとも世界におくれることなく早急に進めていただきたいと思っております。この全ゲノム解析の研究に必要な財政支援また体制整備についてお伺いをいたします。

○佐原政府参考人 お答えいたします。

 まず、体制整備につきましては、厚生労働省では、がんゲノム医療の充実のための医療提供体制の構築は非常に重要だと考えております。

 具体的には、第三期がん対策推進基本計画に基づきまして、遺伝子パネル検査を実施することができる医療機関として、これまでに全国で十一カ所のゲノム医療中核拠点病院、また百五十六カ所のゲノム医療連携病院を公表したところでございます。さらに、本年九月を目途にがんゲノム医療連携病院を約三十カ所程度指定し、全国の体制を充実していくこととしていきたいというふうに考えております。

 また、差別や不利益をこうむらないようにということで御質問いただきました。この点も非常に重要なことだというふうに考えております。

 このため、遺伝学的特徴に基づき差別を受けたことがあるか等に関しましてアンケート調査を実施をいたしましたところ、生命保険や民間医療保険の加入を拒否された、あるいは勤務先で異動や降格を命じられた等の差別的な取扱いを受けたという回答がございまして、ゲノム情報に基づく差別や不利益が一定程度認められたというところでございます。

 この調査結果を受けまして、文部科学省、法務省、金融庁等関係省庁と必要な対応を依頼したところでございます。また、厚労省としても、引き続きこのようなことがないように必要な施策に取り組んでまいりたいと思います。

 また、全ゲノムの解析につきまして御指摘をいただきました。

 御指摘のとおり、こちらについても非常にこれから重要な分野であると考えております。我が国においても、世界におくれをとることなく、全ゲノム解析を用いた研究の推進などに取り組んでいかなければならないと承知しております。

 しかしながら、全ゲノム解析の推進に当たっては、解析費用でありますとか、あるいはコンピューターの整備、人材の育成といった課題がございます。こうした課題を解決するため、厚生労働省としては、関係省庁とも連携し、必要な施策の充実や財源確保について引き続き取り組んでまいりたいと考えております。

○古屋(範)委員 ゲノムということにつきまして、今、生殖関連の技術の進歩も目覚ましいものがございます。一九八七年に世界初の試験管ベビーが誕生いたしまして、体外受精は当初は倫理的な課題が指摘をされたわけです。今はもう十八人に一人が体外受精で生まれているということです。

 四月二十二日、内閣府の生命倫理調査会におきまして、赤ちゃんを得るために遺伝子改変をした受精卵を母胎に戻すことは法律で禁止する一方、受精卵を使って遺伝子改変を伴う疾患などの研究そのものは容認という方向が示されました。全世界が注目している重要な未来を決める事柄だということを認識しております。

 ゲノム編集につきましては、従来、遺伝子治療が正常な遺伝子を導入することにとどまっていたところを、遺伝子のDNAを編集をして根本的に書きかえることができるようになったものであります。希少疾病や難病を根底から治療したりすることが可能になったと期待をされているわけです。

 一方、御存じのように、中国で研究者がゲノム編集でエイズウイルスに感染しにくい双子を誕生させたということを公表いたしました。国内外に議論を巻き起こしております。本日付の読売によりますと、これに対して米国などの研究チームは、エイズにかかりにくい一方で、他の感染症にはかかりやすくなるということをまた発表しておりまして、こうしたゲノム編集ということについて、まだまだどういうことが起きるかわからないという今現状にあると思います。

 日本においては、技術の進展の変化に即応できない過度な規制は研究開発をおくらせるのではないかとの判断で、特別に法律は設けないで指針で対応するという方針でした。指針では、受精卵へのゲノム編集は基礎的な研究に限り認め、受精卵を母胎に戻すことは禁止をしています。本年四月から運用が始まる、罰則はないということでございます。

 ゲノム編集は既に簡単なキットでできる段階まで来ていて、今後、民間の医療施設が独自に患者を集めてゲノム編集を実施するような時代が来るかもしれない。急速に変化する技術の進展を見据えて、法律による整備をどう考えていらっしゃるのか。ぜひ罰則のある規制を考えていただきたいと思います。この点に対しての見解を求めたいと思います。

○赤石政府参考人 お答えいたします。

 CSTIにおきましては、ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方について、従来より生命倫理調査会において検討してきております。平成三十年三月には、ヒト受精胚のゲノム編集技術の利用については、基礎研究は段階的に対応、検討を進める、その一方で臨床利用は容認できないという報告書を昨年まとめたところでございます。

 しかるに、その後、中国の研究者が、まさに御指摘のありましたとおり、ゲノム編集技術を用いて双子の赤ちゃんを誕生させたということでして、更に検討を深めまして、本年四月には、臨床利用は容認できないとする見解を強く再確認するとともに、臨床利用に対して、法的規制のあり方を含めた制度的枠組みの検討が具体的に必要になったと考えられ、その検討を各省庁に求める、そういう報告書をまとめてございます。

 具体的な枠組みにつきましては、医療に関しては厚生労働省、基礎研究につきましては文部科学省が所管しているところでございまして、こういった関係省庁で検討を深めて、秋にはそういった検討状況の報告をCSTIとしても受けまして必要な審議をしていく、そのように考えております。

○古屋(範)委員 重大な問題でありますので、将来のためにこうした研究のメリット、デメリットを整理をして、早急に工程表、行動計画をつくって、一歩進めた議論が必要であると考えております。

 急いで検討しなくてはならないことがたくさんあるとの思いから、生殖補助医療との関連も含めてお伺いをしたいと思います。

 まず、体細胞に対するゲノム編集によるDNAの変化はゲノム編集を受けた人だけの問題になるんですが、生殖細胞に対するゲノム編集によるDNAの変化というのは子孫に受け継がれていくこととなります。生殖細胞や受精卵の段階で遺伝子を改変すれば、生まれる子供の全身に効果も影響も出てくることとなる。人類が誕生してからずっと維持されてきた性染色体に触れてもいいのかという問題意識や、将来の世代に予想を超えた影響が出るのではないかと思っております。

 私が最も懸念いたしますのは、当初は遺伝子疾患の予防としても、不妊治療に拡大をされてしまうのではないかということであります。

 そもそも、我が国においては、生殖医療に対して、出自を知る権利というもの、あるいは精子の提供、また卵子の提供というものに関して法整備ができておりません。

 私たち公明党は、生殖補助医療に関する法整備等検討プロジェクトチームをつくり、座長である秋野公造参議員が中心となって、議員立法、生殖補助医療の適切な提供に関する法律案をまとめました。これは、自民党案とあわせて自公案を取りまとめたところでございます。

 生殖補助医療では、治療以外の目的、例えば健康な身体や精神の機能を向上させるために行われることがあってはならないというふうに考えます。これについての見解を求めたいと思います。

○赤石政府参考人 お答えいたします。

 今先生の御指摘のありましたエンハンスメント、ここにつきましては、さまざまな場面で利用される可能性がございまして、不公平感の深刻化、あるいは強制利用などの倫理的な問題もあるもの、そのように理解してございます。

 したがいまして、本年四月の生命倫理調査会の報告書におきましては、御指摘のいわゆるエンハンスメントも含めて、目的いかんによらず、ゲノム編集技術を利用したヒト受精胚の臨床利用は容認できない、そういった見解を強く確認しております。これにつきましては、当然エンハンスメントも含まれてございます。

○古屋(範)委員 私たちがこの立法作業の中で最も大事だと考えましたのは、母体の、女性の健康の保護と、また生まれてくる子供の福祉ということであります。これを大前提として法整備を考えるべきだというふうに考えます。

 また、カウンセリングの体制の整備についてもお伺いをしてまいりたいと思います。

 ゲノム診断を受けた、しかし、その後、最適な治療は何なのか、また、それは一体どこで受けることができるのか。また、その後の人生においても非常に大きな影響を受けると思います。また、それが家族にも及ぶ可能性があります。

 こうしたゲノム医療に限らず、出生前診断等についても、診断やカウンセリングの質の担保が重要な課題になってまいります。医師の遺伝カウンセラーが十分に説明する体制は喫緊の課題であります。今後のカウンセリングの取組について、丁寧な対応を求めたいと思います。見解を求めます。

○佐原政府参考人 お答えいたします。

 がん患者等に対するゲノム医療を推進するに当たりましては、国民や医療従事者に対してゲノム医療に関する普及啓発を行うことが重要であると考えております。

 そのため、例えば、がん患者やその家族に対し、がんに関する情報提供を進めるとともに、患者がゲノム医療を理解し自己決定ができるためのカウンセリング体制の充実強化を図ることが重要であると考えております。

 厚生労働省では、がんのゲノム医療従事者研修事業やがんゲノム医療相談支援マニュアルの作成等に取り組むことで、がんのゲノム医療に必要な人材の育成やカウンセリング体制の支援に努めております。

 今後とも、国民の理解を深めていただけますよう、引き続き必要な施策に取り組んでまいりたいと思います。

○古屋(範)委員 ゲノム医療について議論をしてまいりました。これまでの議論を聞かれて、平井大臣、何か感想があればお聞きしたいと思います。

○平井国務大臣 まずは、やはり国民の理解を得るというのが一番重要だと思います。その意味で、いろいろな形で、ゲノム医療の推進に当たって、普及啓発の活動をしていかなきゃいけない、我々議員もやらなきゃいけないな、そのように感じました。

○古屋(範)委員 時間が参りました。以上で質問を終わります。

 ありがとうございました。

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