医療再生、災害への備えは?(公明新聞 2011年8月14日付)

東日本大震災から5カ月
東京臨海病院長
日本集団災害医学会代表理事
山本 保博氏

公明党介護保険制度改革委員長(衆院議員)
古屋 範子さん
公明党東北方面議長代理

党厚生労働部会

災害拠点病院の耐震強化や正確な情報伝達が必要 山本

東日本大震災から5カ月がたち、東北の被災地では地域医療の再生が課題となっています。災害医療の第一人者である山本保博・東京臨海病院長と、公明党東北方面議長代理で医師でもある渡辺孝男参院議員、党介護保険制度改革委員長の古屋範子衆院議員に災害医療のあり方を含め、語り合ってもらいました。

渡辺 大震災から5カ月がたちますが、被災地の医療体制は十分とは言えない状況です。過酷な避難生活を送る住民の中には、この暑さで持病を悪化させた人もいます。生活が不規則になれば血圧も高くなり、脳卒中の危険も指摘されており、対策が急がれます。

山本 大変な問題です。現在、9万人近い住民が避難生活を強いられています。一方、これまで全国各地から派遣されていた医療チームは、徐々に地元へと引き揚げています。

古屋 もともと、東北は高齢化率が高く、慢性的に医師が足りない“医療過疎”地域が多くありました。

遠隔医療やドクターヘリ、病院船など支援を幅広く 渡辺
地域医療維持へ仮設診療所建設

山本 しかも、現地の医療スタッフも被災しています。何より、地域医療を支える拠点病院の復旧が急務です。そこで、私が副理事長を務める「日本災害医療ロジスティックス協会」が中心となり、岩手県大槌町に仮設診療所をつくり、6月27日から診察を始めています。

渡辺 その仮設診療所には私も訪問し、スタッフの方々と意見交換しました。

山本 震災で停電や建物が損壊し、ライフラインが維持できなくなった病院が数多くありました。ある調査では、全国の災害拠点病院の約4割は耐震化が不十分です。医療を支える人も必要ですが、病院の建物の強化も急がねばなりません。

古屋 被災者支援に関する情報共有の手段をどう確保するかも課題ですね。

山本 今後の災害医療を考える上で大きなテーマになるでしょう。公明党にぜひ知恵を絞ってほしい。

渡辺 震災直後、携帯電話の基地局が被災したこともあり、通信手段がほとんど機能しませんでした。そんな中、宮城県の災害医療コーディネーターに当時の様子を伺うと、混線や通信規制が起こりにくいとされるデジタル式の業務用無線が情報共有の手段として役立ったと言われていました。現場の方々の体験を参考にしていきたい。

古屋 ところで、専門家の立場から今回の震災における救急医療の初動態勢をどう見られていますか。

山本 私は東日本大震災での死者・行方不明者と負傷者の割合に注目しています。

通常の災害では、死者・行方不明者数の5〜15倍が負傷者数になります。ところが、東日本大震災では、死者・行方不明者合わせて2万人に対し、負傷者は5700人にとどまっています。全く逆の現象です。

渡辺 今回の震災の大きな特徴ですね。

山本 もちろん、公明党も推進してこられた災害派遣医療チーム(DMAT)や、日本医師会が独自に派遣した災害医療チーム(JMAT)が被災地で活躍したことは事実です。しかし、低体温症への対応を十分に想定していなかったことも否定できません。今後の医学的な検証に期待します。

渡辺 医療支援の方法も幅広く考える必要があると思います。今回、三陸地方の道路交通網が寸断されたこともあり、空からドクターヘリなどによる救急搬送が活躍しました。その一方で、海からの支援も必要だったと感じています。

古屋 海上保安庁が阪神大震災を教訓に、船内に手術室を設けた「災害対応型」の巡視船を建造しましたが、今回の震災では十分な活躍の機会が与えられなかったと聞いています。

渡辺 公明党も大規模災害時には、大型の病院船による患者搬送や治療が有効ではないかと考えています。

山本 世界では米国や中国、ロシアが病院船を所有しており、スマトラ島沖地震など国際的な災害現場で活躍しています。

古屋 今後の地域医療をどう支えるかも課題ですね。

渡辺 テレビ会議のシステムを利用して外来診療を行う遠隔医療を活用することも、医師不足の医療過疎地域に役立ちますね。

私は、地域医療に携わってきた一人として、地元の住民と医師が“顔なじみ”になることが大切だと感じています。それは地域や人に寄り添ってこそ見えてくる症状や疾患があるからです。

山本 同感です。その意味で、1次医療はあくまで地元の診療所で行い、重症度に応じて広域搬送する仕組みが必要です。

被災者の生活・介護を支えるには訪問支援も大切 古屋

渡辺 災害時には、医療支援のみならず、介護支援も重要です。私は、国会でDMATとは別に、「災害派遣介護チーム」の創設を提案しています。

古屋 私も仮設住宅の近くに人々の生活・介護を支えるサポート拠点の設置の必要性を訴えてきました。

山本 大事な視点です。

古屋 7月1日に、地方議員と連携し、宮城県岩沼市の仮設住宅内に第1号となるサポートセンターが開設されました。運営は、青年海外協力隊のOB・OGらでつくる青年海外協力協会に委託されています。

山本 それは、良いアイデアですね。現場主義に根差した青年はスピード感や行動力があります。

古屋 センターを訪問して話を伺ったところ、スタッフの一人は、アフリカで難民支援に携わってきた方でした。若い方たちの力も借りて、今後、仮設住宅の住民だけでなく、被災者が抱える不安などを把握するため、地域の人々にも「アウトリーチ(訪問支援)」を行うなど、普及を急ぐ必要があると思います。

地域と連携した心のケア対策を

山本 今後の災害医療への備えとして、医師や看護師、自衛隊員に対し、心的外傷後ストレス障害(PTSD)になりにくいストレスケア教育も必要ではないでしょうか。これは、学校教育の中に組み込んでもいいかもしれません。

古屋 同感です。政府は“心の健康の支援チーム”を被災地に派遣してきましたが、今後は、地元の保健師などが対応していかなければならないでしょう。

その一つの試みとして、認知行動療法の第一人者である大野裕・慶應義塾大学教授は宮城県女川町で、保健師や看護師などを対象に、心と体のケアに関する研修会を行っています。

山本 東北の被災地を歩いて住民の皆さまと語り合うと、市町村より細かい単位の地域ごとで「文化」が違うことを感じます。ただ単に、1カ所に集めるだけの医療ではなく、こうした地域の事情を踏まえた医療の復旧、復興が必要ではないでしょうか。

古屋 公明党はどこまでも災害弱者に光を当て、地域の声を大切にする現場主義の政党です。地元に密着した地方議員と連携を取りながら、サポート体制をさらに進化させて、それぞれに合ったコミュニティーの再生を期したいと考えています。

山本 これまでのお二人の話を伺うと、やはり公明党は地方議員から国会議員まで現場主義の方々だと感じました。ぜひ今後とも、さらに現場で汗を流し、被災した住民の皆さまと心と心を触れ合わせる行動をお願いします。

渡辺 頑張ります!

やまもと・やすひろ 1942年生まれ。日本医科大学大学院医学研究科修了。日本医科大学千葉北総病院病院長、同大学付属病院高度救命救急センター部長などを歴任。世界各地で起きた20を超える大規模災害の現場に足を運び、長年にわたって被災地医療の充実・向上に尽力してきた。

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